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「やる気がないように見えるよ!」と男は言った

昨日のことである。

私の家の最寄り駅周辺は再開発をしていて、ちょっと前まで焼け野原のようになっていた。今は突貫工事で、いくつもビルが建ちつつある。

ガーガーガーガー、いろんな大きな機械が使われ、いろんな工事がなされている。何のための何という工事なのか、私には分からない。

その工事現場の脇の、細い迂回路を自転車で通り抜けようとしたときだった。

二人の男が話していた。
いや、正確に言うと、二人の男が数メートル離れて立ち、片方の男が、一方的に声を張り上げていた。

声張り上げ男はヘルメットをかぶり、作業靴というのか、ごっつい長靴のような靴を履いている。このあたりで仕事をしている人だろう。日本人だと思う。

もう一人は、青いつなぎ。ヘルメットはかぶっていない。顔の様子などから外国人だと思われる。コンビニの小さな袋を手に提げて、これから休憩を取るか、休憩の帰りかに見えた。黙っている。

ヘルメットの男は言うのだった。

これで帰ったらさあ、やる気がないと思われるよ。やる気がないと思われる。こんなんで帰ったら。

怒鳴っているわけではない。大きな声を出しているが、怒りにまかせてというわけではない。どちらかというと冷静だ。
その割に繰り出すワードは攻撃性が強い。

冷静VS攻撃性。
私はそこに引っかかったが、二人のあいだに何があったのか分からないし、何より、やっぱり怖かったので、そのまま通り過ぎようとした。

思わず振り返ったのは、ヘルメット男が一層声を張り上げたからだ。

お前、バカじゃねえの!!!

これはいけない。アウトである。パワハラである。
ただ、それでもまだ、怒鳴ってはいない。声が大きいだけである。

バカなんじゃねえか、ホントに。帰れって言われて、ホントに帰るヤツいねえよ。この前だって社長に×××っていわれたじゃん。だから○○○なんだよ!だから・・・

次から次へと、つなぎ男の落ち度を列挙していく。

つなぎ男は、ミスをしたか、時間に遅れるか、ともかく周囲から「やる気がない」と思われるようなことをしたのだろう。
ヘルメット男は、そんな彼を「指導」しているのだ。業務上必要な「指導」を(そういえば、なんとなく先生っぽかった)。

「正義は我にあり」と思っているから、正論を吐くのだから、怒鳴って威嚇する必要はない。だから、正々堂々と、落ち着き払って、昼日中に人をバカ呼ばわりしていたんだろう。

まあ、大声で「お前、バカじゃねえの!!!」と言ったら、どういうトーンだろうと、それはもうNGだと思いますけどね。昨今では。

私が社会に出た20代のころ、世の中にはまだパワハラという言葉はなかった(セクハラはあった)。
私は当時の上司に、「やる気がない、やる気がない」としょっちゅう怒られていた。
ミスをしたとか、できばえが悪いとかではない。とにかく私には「やる気がない」というのだった。

そして、言われても、言われても、私には「やる気」の見せ方が分からなかった。

遅刻も早退もせず・・・土日も入れて30日連勤みたいな日々で、あと、どうやってやる気を見せればよかったのか。
朝5時に出社するとか、もう会社に住むとか、「私は半人前なので、給料は半分でいいです」とか自主的に言えばよかったのかなあ。

あれから20年がたち、私はもはや50に手の届く歳になったけれども、いまだに「やる気」の見せ方は分からない。

やる気なんか、私にはないのかもしれない。ただ、やるだけだ。そして、別にそれでいいだろ、と思っている。

やたら「やる気」に満ち満ちている人の面倒くささも知ってしまったし、うっかり「やる気」があることを感知されると、そこに際限なく仕事が覆い被さってくることも知ってしまったから。

いただく報酬に見合った仕事をする。それでいいと思う。仕事も会社も、私の人生の何を担保してくれるわけでもないのだから。

さておき、ヘルメット男とつなぎ男は、その後、どうなっただろうか。
仲良く・・・はならないだろうな、そりゃ。
二人とも、少なくとも私より10歳以上は若いと思う。少しでも気分よく働ければいいと思っている。祈っている。

働く二人の青年に幸多かれ。合掌。

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