映り込んだ僕は魚
「なんか、ちょっと出てるねぇ〜」
メガネを掛けた小柄な彼は、健康診断の問診担当のお医者さんだった。
優しそうな彼は私の喉元を見て、両手で触診を始めた。
人から両手で首を触られるシチュエーションって、このまま絞殺されるくらいしかないんじゃない?なんてのんきに構えてるのが伝わったのか、
「やっぱり、ちょっと出てるかなぁ〜」
とちょっと困ったように口にする。
「ちょっと、ゴックン、ってしてみて?(嚥下する私)ほら、喉のちょっと下の方、わかる?蝶々がいるでしょ?」
“喉元に蝶々”という表現が詩的過ぎて気を取られせいもあったけど、私に蝶々は見つけられなかった。(というか、蝶々からお花畑を連想していて、文字通り、頭お花畑状態だったことはここだけの内緒だ)
この詩的なドクターが宣っている「蝶々」は甲状腺を指しており、私の甲状腺が少々肥大しているようだった。
「ここんとこ疲れやすかったり、体重が落ちたりしてない?」
全然自覚がなかったのだが、言われて考えてみたら体重はかなり落ちてるし、汗を異様にかくし、階段を上がれば息が上がる。
脈を測ってみると平常時で120〜130くらいのビートを刻んでるではないか。
♩=120ならまぁ普通かと思うけど、心臓の話である。
「んー軽いバセドウかもねぇーちょっと調べてみるー?」
ということで、血液検査と超音波エコー検査がオーダーされたのでありました。
◇◇◇
超音波検査日。
ちなみに私は超音波童貞はとっくに捨てているので悠々の構え。
流れるように台に乗り、シャツの襟元のボタンをこれでもかと開いて、アゴを上にして喉を差し出し、
「これで両手を横に開いたら完全にGLAYのTERUだわね」
なんてしょうもないことを考える余裕だってある。
さて、先生はそんなこと知ってか知らずか手早く仕事に取り掛かり、首尾よく進めながら説明もしてくれる。
甲状腺はスポンジ状の形態をしていること、血管が通っていて、押し込むと甲状腺機能が亢進するのだと。
「だからあんまり押しちゃダメだよー」
と先生はニコニコしながらグイグイとエコーを押し込み、容赦がない。上島竜兵さんが横にいたら一緒になってツッこんでくれるんじゃないかって思うくらいの押しっぷりである。
そういうわけではやぶさは、診察台の上で疑問を感じつつも、絶え間なく注ぐ愛の名(エコーのグリグリ)を永遠と呼ぶことが出来そうなくらいになっていたのでありました。
◆◆◆
そんなこんなで結果発表。
結果的にバセドウ病に限りなく近いグレーということで、血液検査等も含め数値はギリギリセーフということでした。
そして、改めて甲状腺のエコー映像を見せてもらいながら、先生はこんなことを言いました。
「甲状腺はエラの名残りって言われてるんだよねぇ。で、あなたのはこの辺に穴が幾つかあってね…(中略)…要は、進化しきってないみたいだね、あなたの甲状腺」
…
甲状腺が進化しきってない?
エラ → 進化 → 甲状腺
↑イマココ?
そう思った瞬間、「ぅぉおー」と美声でシャウトする秦基博がフェードインしてきたんですよね。
それでは聞いてください。
秦基博で『鱗』。
サポートのご検討、痛み入ります。そのお気持ちだけでも、とても嬉しいです。