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【読書記録】「勘三郎の死」中村哲郎

勘三郎と私

ここ一週間ほど、「勘三郎の死」という本を読んでいた。
中村勘三郎丈は、私にとっては特別な役者さんである。
中学生の時に大河ドラマ「武田信玄」で白塗りで貴族風の今川義元を演じていたのを見てファンになり、母親から歌舞伎役者だよと教えられ、歌舞伎座へ行った。


初めて行った歌舞伎座は赤色メインの綺羅びやかな空間で、ざわざわとした何とも言えない高揚感やワクワク感は今も覚えている。
いくつか演目はあったけど、記憶に強烈に刻まれているのが「お祭り」だった。
この時はたしか先代十七世中村勘三郎が亡くなって間もない頃で、父親がやるはずだった「お祭り」を当時勘九郎だった十八代目が演ったのだった。

その後、幸運が重なり楽屋にお邪魔してご本人とお会いすることも出来た。中学生の私は、ただただポーッとなっていて会話らしい会話も出来なかったけど、芸だけでなく気さくで人懐っこいお人柄にも感動し心酔した。

時は流れ2012年12月、勘三郎は逝った。芸能人の訃報に接し初めて涙を流した。
年末に葬儀がいとなまれたけど、私は入院中だったので行くことは出来なかった。
手術後数日のまだ生傷を抱えた身だった。それでも、一筆書いて外出許可を取り行きたかった。
なのにクリスマスの夜に嘔吐してしまい、当時近隣の病院で院内感染が起こっていたノロウィルス感染の疑いがかかってしまい叶わなかった。
しっかりとお別れ出来なかった悲しさや悔しさは未だに心を締め付ける。

「勘三郎の死」という本

いつだったか、母が読んでいた新聞の広告欄にこの本が出ていた。そこに、本文から抜粋された煽り文句が書かれていた。

何と言ってもいい役者だった
面白い、愉しい役者だった
ある時代の、人の世の花だった――

私は激しく首肯した。
作者の方は何十年も勘三郎と親交のあった方だ。比べて私は、集中的に観に行ったのは10代から20代の何年か。
直にお話させて頂いたのもトータルで何分かという程度でしかない。
でも、それでも、この一文が「本当にそうだよね!」とよく分かったのだ。

本書は全体的に回顧録といえる。
1章は勘三郎に関する話、改めて勘三郎という役者の芝居に対する情熱や人柄に感じ入り、また、他の役者との関係(血筋や芸に対する考え方の相違や一致など)なんかは私には知るすべもない事だったので興味深く読んだ。
そして、勘三郎の死に対する喪失感。私は何万人もいる一ファンというだけの人間だが、うんうんそうだよねそうだよねと目を潤ませながらベージを手繰った。

2章は鬼籍に入ってしまった歌舞伎関連の人たちの話。役者や評論家、歌舞伎好きの作家など。主に昭和に活躍した方々なので、昭和の歌舞伎について興味のある方や昭和の時代に歌舞伎を見物された方にいいと思う。

3章は歌舞伎の演目や劇場に関する話。こちらも昭和時代が中心となっている。歌舞伎座の歴史や平成中村座の話は興味深く読めた。

4章は歌舞伎関連の書籍の話、5章はロンドンにある劇場の話。

2章以降は知らないことだらけで、へぇ〜と言いながら読んでいた。知らなすぎてついて行かれなかった部分もあったけれども、とても濃密で読み応えのある1冊だった。
勘三郎が好きだった人、昭和〜平成あたりの歌舞伎に興味のある人は、一度読んでみると面白いだろう。


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