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【河鍋暁斎】星落ちて、なお(澤田瞳子/文藝春秋)―読書感想【河鍋暁翠】

第165回直木賞受賞作。

あらすじ

河鍋暁斎の娘、とよ(暁翠)の物語。
父であり師であり、偉大な絵師だった河鍋暁斎の葬儀の夜から物語は始まる。とよには姉、兄、弟、妹がいるが、姉は河鍋の家と関わりを持とうとしない。兄は喪主は務めたものの、後始末もせずに家に帰ってしまう。
他家に養子に出された弟はへらへらとだらしがなく、妹は病弱。
河鍋の家の諸々を引き受けながら、妹と細々と暮らすとよ。しかし五歳から父に手ほどきを受けた絵は常にとよの傍らにあった。

感想

変わりゆく時代や人の心、人の浮き沈み、出会いや別れに翻弄されながらも、とよは絵をやめなかった。それは、心の中に軛(くびき)と言っていいほどの父の存在があったからだった。

本作では、絵を描くシーンの描写はそんなに多くはなく、家族や周囲の人々との人間関係や、父暁斎への愛憎、絵に対しての葛藤の要素が大きい。

それと、明治という時代柄、変化してゆく東京の景色が詳細に描かれている。

時代とともに絵の流行りも変わってしまい、河鍋暁斎は過去の人となってしまう。その影響はとよの周囲の人にまで及ぶが、とよは抗う。

普通の父親らしいことは何もしてくれなかった父暁斎。兄弟との縁も薄いとよだが、特に兄周三郎とは仲が悪かったけど、不思議と通じ合うものがある事が徐々に分かってくる。

家族とは何か、血のつながりだけのものなのか。父暁斎や周三郎とは何で繋がっていたのか。

とよにとっての河鍋暁斎とは、何の為に絵を描くのか。時代は大正になり、東京の景色は更なる変化を強要される。その果てに、とよはどのような答えを見つけるのか。

生きる目的を見出しにくい現代の人々の心に刺さる一冊。直木賞受賞、納得。

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