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読書の記録(12)『聴こえない母に訊きにいく』五十嵐大 柏書房

『聴こえない母に訊きにいく』 五十嵐大 柏書房

手にしたきっかけ

表紙の優しいような、さみしいような、はかなげなようなイラストと、タイトルの書体にひかれた。ノンフィクションを読んでみたいと思った。

心に残ったところ

軽い気持ちで読み始めたけれど、自分の無知さを突きつけられるというか、たくさん考えさせられた。『善意からくる心配や配慮』で、他人を傷つけていないか?自分の価値観を他人に押しつけてきてはいないか?とすごく考えさせられた。「あなたのため」「あなたに苦労をさせたくない」といった言葉は『善意からくる心配や配慮』を表すように思う。

小学生の頃、「私と妹とどっちが好き?」と母に訊こうかと思ったことがある。自分のことを好きだと言ってほしい気持ちもあるけれど、「2人とも好き」「比べられるわけない」「そんなの答えられない」と言ってほしいと、内心では思っていた。親を試すようなことを言ってはいけないと思って、結局は聞けなかった。私の幼い無邪気な感情とは全く違うけれど、コーダである筆者は母に訊いてみたいことがあるという。

母に、ずっと訊いてみたいことがあった。
ぼくの耳はきこえるけれど、本当はどちらが良かった?
聴こえる子どもと聴こえない子ども、どちらを望んでいた?

『聴こえない母に訊きにいく』

初めにこの3行が出てくる。私はこの3行にこの本を読む覚悟があるかと問われているような気になった。興味本位で読むのは失礼に当たる気がして、背筋が伸びる思いがした。とても繊細で、お母さんの答えによっては本にすることができないかもしれない、家族の根源的な大切な質問をこの本の中心に据えている。だからこそ、この本が伝えようとしていることが読み手にダイレクトに伝わる気がする。

お母さんの恩師を訪ね、そこでわかる生き生きとした中学生の時のお母さんの姿。お父さんと出会って結婚するまでの経緯。息子さんの名前の由来。当事者でない私の想像なんてたいしたことはないと思うけれど、それでも少し切なくてほんのり幸せな気持ちになった。家族の数だけ愛情の伝え方があるし、愛情の受け取り方があると思った。

『優生保護法』について、浅い知識しかなかった。昔はろう者が自動車運転免許を取ることが禁止されていたということも、この『聴こえない母に訊きにいく』を読んで初めて知った。

ドリアン助川『あん』を読んだときにも、いろいろ考えたはずなのに、月日がたつとそのことも薄れている。忘れないために、考え続けるためにも、いろいろな本を読み続けていこうと思う。

あとがきを読んでていて、この本が柏書房の公式note「かしわもち」に書かれていたものをベースに書き下ろしたものだと知った。私も自分がnoteをに書き始めて、色々な方の投稿を読むようになった。noteで読んでいる人も多いだろうけど、noteという場を知らない人もいるだろう。本になると幅広い読者に届くし、届く裾野が広がるんだなあと思った。多くの人に読んでもらいたい1冊だ。

私にとって価値観を揺さぶられる大事な1冊となった。もし、今、いわた書店さんの『一万円選書』に当選して、BEST20を選んでカルテを書くなら、間違いなくその中の1冊に入れる。

まとめ

久しぶりにノンフィクションを読んだ。事実の持つ重みに心が引っ張られる感じがした。これは、フィクションでは味わえない。

人と同じこと、多数派であること、に安心しがちな自分がいる。みんながそうやっているから、普通は〜だから、といった価値観に自分の身を置いて、思考停止になってはいないか、とすごく考えさせられた。

今すぐ何か行動ができるかと問われれば、何ができるのかわからない。
綺麗事かもしれないけれど、「こんな本があるよ」「私はこの本に心を動かされたよ」と、まずは今の気持ちを忘れないうちに記しておこうと思った。


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