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読書の記録(30)『ぼくの「自学ノート」』 梅田明日佳 小学館

手にしたきっかけ

何年か前に、たまたまNHKスペシャル「ボクの自学ノート〜7年間の小さな大冒険」を見た。その時、その少年は確か中学3年生だった。自学ノートの取り組みを一人でも続けるすごい子がいるなあと思って見ていた。

勤務している小学校の3年担任の先生から、「自学の本を買ったので、それを学級文庫に置きたい。ブッカーを掛けてもらえないか」という依頼があった。その時に、そういえば、以前ドキュメンタリーですごい少年を見た…という記憶が蘇ってきた。

検索してみたら梅田明日佳くんのことだとわかった。本を出されていることもわかった。さっそく読んでみた。

心に残ったところ

教員をしていた頃、担任をしていたクラスで「自学ノート」を薦めていた。家で学習する習慣をつけてほしい、書くことで自分と向き合ってほしいという思いから薦めていた。授業の復習や、テスト対策。日記を書いてくる生徒がいた。空き時間にノートを読んで、コメントを書いた。

中学3年生を担任した時。ある女子生徒は、毎日欠かさずノートを提出していた。「高校生になっても毎日続けます」と最後の自学ノートに書いていた。「卒業おめでとう。忙しくなると思うから、無理しなくていよ。まずは、高校生活に慣れるのが第一。自分のやり方をまた見つけたらいいよ。」みたいなことを書いて返した。

GW頃に「続けられると思っていたけれど、続けられなくなってしまいました。ごめんなさい。」という手紙をくれた。罪悪感を感じさせてしまったことを申し訳なく思った。

「高校生活が充実しているようでなにより。自学ノートのことは気にしなくていいよ。○○さんが3年生の時に頑張っていたから、いろんな力が身についたんだよ。今の高校生活やこれからにつながっているんだよ。」というようなことを、返事の手紙に書いた。気持ちを楽にしてほしいという一心だった。

梅田くんの自学ノートは質も量もすばらしくて、大人が見ても惚れ惚れする。レイアウトや文字の丁寧さからも、誰かに見てもらう前提で書いていることがわかる。情報を忘れないように転記しただけでなく、自分の考えを書いているから、読んだ人は感想やアドバイス、自分の考えを伝えたくなる。「よく調べました」「よくできました」といったありきたりの感想で終わらない交流が始まる。

『大人の学び』としてのノート術や手帳術なども今までいろいろ見てきたけれど、梅田くんの自学ノートはどれをも包括している感じがする。自分が知りたくてやっているから、調べれば調べるほどもっと知りたいことが出てくる。わからないことが出てくるから本を読んだり、詳しい人に聞いたりして、答えを見つけたくなる。それを梅田くんは一人でずっと続けてきた。過去に調べたことが、最近気になって調べたこととつながって深まっていく。そんな体験を梅田くんはたくさんしたのだと思う。気になることをひたすら探求することの楽しさがノートから伝わてくる。

「自学ノート」の作り方
1、朝30分朝刊を、学校から帰って10分夕刊を読み、気に入った記事はページごととっておく。
2、わからない言葉を調べ、関連する本を図書館で借りて読む。
3、記事で読んだイベントを取材する。
  チラシは「自学ノート」に貼る用と保存用に2枚もらう。
4、記事を切り抜き、文章の重要部分に蛍光ペンで線を引く。場合によっては自分で撮影した写真などを組み合わせてレイアウトを決める。
5、文章を書く。イラストを入れることもある。日付と何面の記事かも忘れずに。

ぼくの「自学ノート」 梅田明日佳 小学館

1〜5までオーソドックスな学びの基本。だけど、これを何年も続ける人がどれだけいるだろうか。他のだれもできないことをこつこつとやり続けたことが梅田くんの強みだし、唯一無二の「自学ノート」になった。さらに、その自学ノートから新たな出会いが生まれ、学びが深まっていく。学ぶことの本質をこの本は教えてくた。知りたい!学びたい!という人の欲求は止めることができない。

『読書編』も興味深い。『ベストオブおなかがよじれる本』というネーミングも楽しくて素敵!大人が書いた読書案内はたくさんあるけど、10代の方が書かれた読書案内は少ない。何歳ぐらいでどんな本を読んでいたのか、司書の目線で読むとすごく勉強になる。勤務校の学校図書館にある本を梅田くんはこう読んだのか…、と1冊1冊をチェックしてしまう。

『読書編』の扉の文章も素敵だ。

僕は決して、放っておいても本を読むような
立派な子どもではありませんでした。図書館で長い時間を
過ごすうちに、知りたいことは、漫画のことだって
プラモデルのことだってなんでも本で読めると気づき、
今も「こんな本がある!」という驚きを繰り返しています。
この章は、そんな僕の17年分の読書記録です。

ぼくの「自学ノート」 梅田明日佳 小学館

『なんでも本で読める』って梅田くんが書くから説得力がある。図書館の魅力、本のパワーが表現されている。

まとめ

学校で課題として自学ノートをやったり、自由研究が夏休みにあるという学校も多い。すべての子の探究心に火がついて、梅田くんみたいになるわけではない。でも、「自学ノート」のきっかけは学校の宿題だったと梅田くんは書いている。

やらされたから、ではなく、自分からやりたくなるようにするにはどうすればいいのか、悩ましい。

最近、Voicyで中学受験の話を聞いていたので、本当の学力ってなんだろう、とも考えさせられた。偏差値って何なんだ?いい学校って何なんだ?結局、何が幸せなんだ?とか色々考えさせられた。


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