読書の記録(59)『クマのあたりまえ』魚住直子 植田真(絵)ポプラ社
手にしたきっかけ
司書の研修で『動物』に関するおすすめ本を探していて、出会った一冊。
心に残ったところ
動物が主人公の七つの短編。おもに動物が主人公なんだけれど、人間っぽく迷ったり悩んだりして、自分の生きる意味を見いだしていく。読む人によってはいろいろ解釈できるし、いろいろな価値を感じることができる物語だと思う。
本を読むと言うよりも、詩を読んだ読後感近い感じがする。人間の心理や行動をそのままリアルに具体的に描くのではなく、動物の姿を借りて抽象的に描いているからか、読み手はいろいろな想像ができる。
一番目のお話『べっぴんさん』はチドリのお話。これを読んで、『嫌われる勇気』の『トラウマ』のくだりを思い出した。
本当はチドリも南へ行きたい。幼いとき兄弟と練習したけれど上手に飛べなかった。だからこんなふうに自分に言い聞かせてきた。
自分の望むものが手に入らないから、あきらめたり、自分を守るためにいろいろな言葉を並べてしまう。「あのぶどうはすっぱくて食べられないよ」と言うように。だけど、勇気もって挑戦してみれば、新しい世界が開けるかもしれない。一人ではできなくても、仲間とならできるかもしれない。そんな希望を持たせてくれる物語だ。
『クマのあたりまえ』は、『死』や『生』に関して考えさせてくれる。幼いころ、もし両親が突然いなくなって一人ぼっちになったらどうしよう、と考え始めたらなかなか眠れなかった。死ぬってどういうことだろうとか、死んだらどうなってしまうんだろうとか、子どもの頃の方がグルグル考えていた気がする。
子グマは死んだクマを見つけたことで、「怖い。死にたくない!」という思いから、こんなことなら死なないものに生まれたかった、と石になろうとする。その子グマの様子が微笑ましい。どれだけがんばっても、石にはなれない。けれど、いったん感情を捨てて石になろうとしたことで、クマはクマらしく自分らしく生きることの意味を見つける。
『クマのあたりまえ』を読んで、まどみちおの詩『ぼくがここに』を思い出した。初任の頃、私は中学2・3年生の国語を担当していた。他の先生がどんな風に授業されるのかを勉強したくて、1年生の授業を見せてもらったことがある。そのときの授業でこの詩を扱っていた。まだ幼さの残る声で音読してた中学生の声がよみがえってくる感じがした。
まとめ
読む人の年代や、体験によって、いろいろな解釈ができる七つのお話。大人になってから読んだから、『嫌われる勇気』や『ぼくがここに』と結びついたけれど、小中学生が読んだらどんな感想を持つんだろう。七つの物語の中でどれが好き?とか、どれに共感する?とか聞いてみたい。