明太子じいさん

私はある日から待ち続けている物がある
それは「福岡の明太子」だ。

どれくらい待ち続けているかというと
ざっと2年は待ち続けている。

なぜ2年もの間「福岡の明太子」を待ち続けているのか、そのことについてお話をしたいと思います。



2年前…

浅草の街にひとり信号待ちをしていた。
両耳に黒のイヤホン、
黒のチノパンに黒のジャージを着たその男。
黒以外のものを身につけると死ぬ呪いでもかけられているのか?否、センスがないだけだ。

「すいません…」


イヤホンから流れる音楽越しにうっすらと声が聞こえた。
だが気にしなかった。知らない人が知らない人に声をかけているだけだろう
信号が変わるのを待った。


「おにいさん、ちょっと…」


またうっすらと聞こえた。
おにいさんと聞こえてやっと声をかけらている可能性がでてきた。

でも待ってくれ、

ここに居るのは全身黒コーデの男だよ?
ちょっと怖くない?全身黒ってちょっと怖くない?

そんなセンスのかけらもない男に誰が声をかけるのか?そんなやついるのか?




いた。





歯抜けすきっ歯じいさんだった



「浅草寺の場所わかるかい?」

どうやら道を聞きたかったらしい。

「わかりますよ!近いんで案内しましょうか?」

イヤホンを片方外しながら、すきっ歯じいさんに返事をした。


この時はまったく疑っていなかったが、今思えばもっと警戒すべきだったのかもしれない。

なぜなら、浅草寺はもうすぐそこだったし、歯抜けの度合いが普通ではなかった。



わたしは浅草観光案内人をしていたこともあって浅草寺の場所はわかるし、暇だったのもありその場所まで、浅草豆知識を織り交ぜながら案内してあげた。
「浅草寺の観音様って小さいんですよ〜」とか、「浅草神社にも御参りしないとダメですよ〜」など。

そしたら、すきっ歯じいさん大喜び!!

どのくらい喜んだかというと、
見ず知らずの全身黒コーデ男を飲みに誘うくらいには喜んでくれた。

わたしは、じいさんのえげつないほど喜んでる姿が自分の力だと言うことに悦を感じ、タダ酒が飲める喜びがあったのもあり即決で飲みについて行くことにした。

浅草にはホッピー通りという昼からお酒が飲める通りがあるのでそこのお店にふたりで入った。

瓶ビール1本とグラスをふたつ頼み、お互いに注ぎ合って乾杯した。
はたから見たらおじいちゃんと孫が仲良く飲みに来ているように見えるので
おじいちゃん孝行してなんて良い孫だろうと、知らないところで私の株は上がっていたに違いない。あぁ酒がうまい!

人に親切にして、他人からの評価もあがり、タダで酒が飲める!幸せか!!!

朝から何も食べてないのもあり、わたしはすぐに酔った。頭がふわふわしていい気持ちだ、
煮込みを食ってビールを飲む。
肉じゃが食ってビールを飲む。全てタダだ。
日頃の行いがいいとこんなことがあるのか。
こんなことがあるなら毎日すきっ歯じいさんには優しくしたいとすら思えた。

じいさんも知らぬうちに日本酒を頼んでいたが
そんなのはどうでもいい払うのはじいさんだ。
2人はそれはそれは楽しく飲み続けた。

お互い気分が良いもんだから話が進む。
そこですきっ歯じいさんのことを色々聞いた
福岡の明太子屋の社長であること、
東京には娘とその旦那に会いに来たと言うこと、
遊ぶのが好きで前日は歌舞伎町で遊んでいたこと。

ぺらぺらと喋り続けるじいさんからたまに「ふぃー」って音が聞こえる。歯と歯の隙間から空気が
でて、笛のような働きをしているのだろう。笑えるくらいに愛しい。自然に笑みが溢れた

じいさんは、わたしの笑顔と熱心に聞いているその姿に本当に感動したんだろう。
突然こんな提案をしてくれた。

「地元帰ったら、明太子送ってあげる!あと案内してくれたからお小遣いもあげなきゃな」

嬉しかったが、正気か?とも思った。
タダ酒タダ飯のうえに明太子も頂けるって…
しかもお小遣い付き。

じいさんはもしや寿命が尽きる寸前なのでは?
と、ちょっとだけ心配したが2秒後には見えないようにガッツポーズをしていた。

「お小遣いなんてそんないいっすよ~ここもご馳走になってるのに~」

こういうことは、思ってなくても言うものだ

「いや、おじさんは君の気持ちがほんとに嬉しかったんだ。大金を渡せるわけじゃないからな…10万くらいでいいかい?」

耳を疑った。と、同時に喜びで体から変な汁が出そうになった。

「いやいやそんなもらえないですよ」

「いや、もう決めた君の住所を教えてくれ」

完全に勝った。
明太子と10万手に入る。そう思った。
怪しいなんて感情は微塵もない。今時小学生でも騙されないような取引もお酒が体内に回っているから気付かない。あるのは欲にまみれた心だけ。

「そろそろ空港に行く時間だ」

突然のおひらきだったがちょうどいい。
もうじいさんの話にも飽きてきた頃だった
じいさんは電話したいらしく電話BOXに入り公衆電話で電話をはじめた。
携帯電話は歌舞伎町で遊ぶ際に、もしものことを考えて奥さんに預かってもらっているらしい。

じいさんが電話BOXから出てきた

「空港でおみやげたくさん買うことになったよ~」

笑いながら言ってきた
社長にもなるとやはりいろいろなところに買わなきゃ行けないのであろう。

「でもさっきお金使って足りないかもしれなくてさ、もしよかったら1万貸してくれないかな?もちろんお小遣いと一緒に借りた分も送るからさ」

まさかの発言だった。ここで気付くべきだった。普通だったらここはきっぱり断って居なくなるべきだ!!だって怪しいもん!今思っても遅いけど

「いいですよ」

即答だった
当時のわたしはお酒が判断を鈍らせたのもすこしはあったろう。でもそのときは何も疑わない体になっていた。

「あっ、空港までタクシーじゃないと間に合わないかも。タクシー代も…」

「いいですよ」

わたしはすきっ歯じいさんに合計で2万円手渡していた。
売れない芸人にとっての2万円は大金だが、
10万円もらえるしなんなら貸した分も上乗せしてくれるって言ってたからモーマンタイ!
と、本気で思っていた…

じいさんを見送る。
まず兄貴分にことの顛末をはなす。
絶対怪しいといいながらも、案内をしてあげたことは良いことだねとわたしを褒めてくれるのが兄貴分の本当に優しいところである。

後日、相方にも話した
怪しいといいながらも、良かったねと言ってくれた。相方も否定するだけではなかったのでいいやつだ。


10万入ったら2人に何かしてあげよ…と思っていた






あれから、2年たったが未だに明太子とお小遣いは来ていない。あの時の話では1週間以内にはくれるてはずだったのだけどまだ来ていない。
もう引っ越しもしちゃったけど大丈夫かな?


そんな心配も虚しく、日々が過ぎていく


わたしは今でも明太子を待ち続けている。





あれは詐欺だったのか?


深くは考えないようにしている。




最後まで読んでくれたあなたへ
この出来事で僕が得た教訓を教えます

1、 すきっ歯のじいさんが社長なわけない
2、 うまい話なんてそうそうない
3、 もし似たような出来事に遭遇したら相手の電話番号は聞いておく
4、どんなバカな状況でも褒めるところがあれば褒めてあげよう


この4つです。


それではまた次の記事でお会いしましょう

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