【小説】chapter14 イタリアンレストランにて
少し暗めの照明。黒を基調としたインテリア。まさにデートでもなければ行かないような、イタリアンのお店に連れてこられた。どうやら食事はコースで予約しているらしい。
「嫌いなものとか無いかな?大丈夫?」
「大丈夫です。なんでも食べれますから」
「よかった〜。私、ナス苦手だから出てきたらあげるね」
なんか子供みたいですねとからかう僕に、エミさんはわざとらしく頬を膨らませて大人だって苦手なものはあると反論する。そんな他愛もない話をしていたら、料理とワインが運ばれてきた。木の板に盛られたお洒落なチーズとパン。なんだかよくわからないまだら模様のチーズをワインで流し込みながら、初めてエミさんと会った日を思い出す。あの日もこんな感じでワインを飲んで、エミさんがチーズを持ってきてくれた。あの日はすごく酔っていて、どんな話をエミさんとしたのか、何も思い出せない。
「ギャラリーでワイン飲んだ日のこと覚えてます?」
「あー、君がベロベロに酔ってた日でしょ」
「んー全然覚えてないんですけど、僕なんか言ってました?」
「えー?覚えてないの?」
「はい。なんかまずいこと言ってました?」
「えーっとね、私のことめっちゃ可愛いって言ってLINEを聞いてきた」
「え?嘘ですよね」
彼女がイタズラっぽい顔をする。
「ホントに覚えてないんだね」
たしかにLINEは登録してあって、どうやって聞いたのかは疑問だった。ホントにそんなこと言ったんだろうか?急に恥ずかしくなってきて酔いが回ってくる気がする。
「ふふ、顔赤いよ」
結局あの日に何があったのエミさんは教えてくれず、料理も食べ終わり店を出る。
「この後どうする?」
不意に聞かれ、どうするのが正解なのか、どういうことを言えばいいのか戸惑う。そんな様子を見抜いたのか、エミさんは、カラオケに行くか、漫画喫茶に行くか、それとも?と聞いてくる。明日は別になんの予定もない。でも、これ以上関係性を進めるのが怖くて。カラオケに行くことを提案した。
また、エミさんに引っ張られながらカラオケに入る。受付をして個室に入る。少し狭くてぺたぺたする足元。ジメジメしていて、すぐにエアコンをつけた。チャラそうなバンドマンが画面の中で自己紹介するのをうるさく思っていると、エミさんの顔が目の前に急に現れる。そのまま小さな唇が近づいてきて、思わず目を閉じてしまう。
合わせたパーツをそっとハケでなぞると、魔法をかけられたようにピタリとくっつく。それが不思議で、初めて流し込み接着剤を手に入れた時は、なんでも接着したい欲求に襲われた。
合わせた唇には何が流し込まれたのだろう。そのために作られたパーツのようにピタリとくっついたまま、僕たちはその唇をいつまでも離すことが出来なかった。
つづく
この物語は全てフィクションです。