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【小説】chapter12 電話の向こうにて

 あの日居酒屋のトイレで電話をかけてからまた距離が近づいた気がする。電話で話すことが多くなった。今まではなんとなくお互いに遠慮していたのだが、最近は毎日のように電話をしている気がする。夜、ご飯を食べた後くらいの時間に電話をかけたり、かかってきたり。話が弾んでつい長話をすることもあるが、エミさんは必ず10時までには電話を切る。なんとなく気になって聞いてみると毎日10時はカレに電話する時間なんだそうだ。聞かなきゃよかったと思う一方で同じラインに並び立ってるというか、その前に僕と電話してたんだぞという優越感のようなものがあったりもする。それでもやっぱり少し落ち込む。エミさんの発言に対していちいち落ち込んだりしている自分が嫌になるし、僕ばっかりこんなに嫉妬して、不公平だ。なんて思っていたが、この間の飲み会のことをエミさんに話したら、

「ふーん、君はやっぱり年上にモテるんだね」

「なんか押しに弱そうな顔してるしね」

なんて言われてしまった。挙げ句の果てには、

「そういう年上女はやめといたほうがいいよ」

なんてことを言う。あんたがそれを言うのかなんてことは思っても言えない。
 こうやって他愛もない話をしたりしてると、このままじゃ、エミさんの一番にはなれないのかもしれないけど、このままずっとデートしたり電話したり、なんとなく2人でいれば楽しくて、嬉しくて、こんな関係がずっと続いていくのもいいんじゃないかなと思ったりする。その先に何かゴールがあるわけじゃないのはわかっていても。
 形が気に入らなくてパテを盛って直したり、ヤスリをかけたり、サビや泥を塗装で再現してみたり。ずーっと色々いじったりしながら、なかなか完成しない戦車のプラモみたいに。今の時間がすごく楽しくて、着地点を見出すのを後回しにしてしまう。
 こんな関係をずっと続けていくわけにはいかない。僕の心持ちの話ではなく、もうすぐ彼氏が東京に帰ってくるのだ。帰ってきたら同棲を始めるんだろうか?それとも結婚したりしちゃうんだろうか。そんな僕の不安を気にする素振りもなく、エミさんはまたデートに誘ってくる。今度の金曜日、仕事帰りのエミさんに会う。これが最後になるのかもしれない。そんな予感がしている。

つづく

この物語は全てフィクションです。

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