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『戦雲 要塞化する沖縄、島々の記録』を読んで

三上智恵監督の映画『戦雲(いくさふむ)』を観る前に彼女のインタビュー動画や記事を見聞きしたところ、「戦雲」の書籍があるというので読んでみた。

映画では淡々と島の人たちの様子を撮影しているようにみえる三上さんだが、本を読むと「ここまでやってもダメなのか」「まだ伝わらないのか」という彼女の絶望的な声が、気持ちが、ひしひしと音をたてて伝わってくる。

彼女の悲痛な気持ちや沖縄、離島で起きていることをこれでもかこれでもかと怒涛のように記録して伝えている。各章にはQRコードがついており、撮影の動画がみられるようになっている。面白い仕組み。

三上さんの講演も聴きに行った。三上さんは講演で「どうして伝わらないんだろう」という悩みを吐露していた。無理もないと思う。前提が沖縄で起きていることに関心がある人にわかるものとして書かれているからだ。

知ってて当然のように「宮森で起きたこと」と言われたが私は知らなかった。「宮森事件」とは1959年沖縄うるま市の宮森小学校に米軍嘉手納基地所属のジェット機が墜落して児童12人を含む18人が亡くなったという事件である。当時は沖縄は返還前でアメリカの占領下におかれていた。沖縄の人々にとっては既知の事件なのだろうが、墜落事故、事件というと私の記憶に浮かんだのは沖縄の小学校にヘリコプターの窓が落下した事件だ。2004年沖縄国際大学の構内に米軍ヘリが墜落した事故のニュースも記憶にある。だが、宮森事件については三上さんが当然のように宮森で起こったことと話していた内容はわからずGoogle検索して知った。

一生懸命やっていると周りのことが見えなくなることはよくある。周りの人との温度差に気が付かなくなるのだ。自分たちはこれだけやっているのだから皆知っているはずだ。或いはここまでやっているのになぜこの事実を皆知らないのか、と思ってしまう。
様々な事情や事実を知らない人に向けてわかりやすく発信しなければ、広い層には伝わらないのではないだろうか。知らないことは勉強してくださいと突き放すようでは、興味を持った人も離脱してしまうだろう。
これは社会的な運動の様子をはたから眺めているときによく感じることである。どの運動も活動も広げるには、背景や事情を知らない人がいるということを毎回噛みしめてわかりやすく説明をいれて発信することも大切なのだろう。

そういう意味でこの本もよく事情を知っている人向けに書かれてはいるが、背景を知らなくても三上さんの感情に共鳴し引き込まれるくらい力強い内容の本であった。

機会があれば手に取って読んでほしいと思う。映画「戦雲」とはまったく別の作品となっている。


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