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映画『バティモン5望まれざる者』鑑賞

フランス映画『バティモン5望まれざる者』を観た。バティモン5とは映画ではパリ郊外の移民が多く居住する地域にある団地の一画とされている。監督が子どもの頃実際に住んでいた団地の名前からとったらしい。

フランスはかつてアフリカに植民地を持っていたことからアフリカからの移民が多い。移民が多い地域は貧困層が多くスラム化していく現実がある。

この映画では誠実で真っ当にみえる市長が移民が中心の地域住民と対立し、古く倒壊の恐れがある建物から彼らを追い出すことで自分に歯向かう邪魔者の住民を入れ替え、街を変えようとしていく戦いの物語だ。

「倒壊の恐れがある」「住民の生命と安全を守るためだ」「今なら訴訟されることもない」

これはジェントリフィケーションにより古くからいる住民を追い出し、再開発等で地域の環境に変化を起こし、地価をあげ富裕層を呼び込み固定資産税や住民税の税収増を図るものである。ジェントリフィケーションにより追い出される古くからいる住民は低所得層が多く、その人たちの行く先についてはあまり考慮されておらず問題になることが多い。海外で起きていることだから関係ないとは思えない。東京でも東京五輪の際に都営霞ヶ丘アパートの住民たちが追い出されたことを思い出す。この映画で描かれていることは数年後自分が遭遇することかもしれない自分ごとである。

「バティモン5」は住民の怒りと市長の怒りがぶつかり合い、途中まで目が離せない。行政から虐げられた住民、その中で希望を失わずに「それでも声をあげ続けなければ変わらない」と市長選に立候補することを宣言するアビーに共感を覚え胸が熱くなる。

ところが、この映画には解がなく、モヤモヤするエンディングとなっている。評価はわかれる映画だろう。せめて選挙に突入して投票結果はわからずとも、その間の住民や行政側の動きなど描いてくれたら気持ちのおきどころがあったのではないかと思うが、なぜここで終わらせる?と監督に問いたくなる。おそらく監督自身にもわからないから観る者に答えをだすことをゆだねているのだろう。

エンディングには不満だが、映画を通じて全編エネルギーのぶつかり合いがあり、主人公アビーの民主主義への信頼、自分たちの力を信じこちらも力がわいてくるようなわくわくする場面を見せてもらい自分としては良い映画を観たと満足している。


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