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アトツギの挑戦#10「変革と協業で、鉄工所を次のステージへ!」

新しい挑戦を続ける筑後地区のアトツギ経営者にフォーカスする「ネクストリーダーズ」
今回は商品の写真からご覧ください。

これらの商品を作っているのは、福岡県柳川市にある創業40年の鉄工所です。

コースターやカトラリーなどデザイン性の高いプロダクトは個人での消費はもちろん、全国のホテルやレストランなど様々なところで使われています。

でも実は、この会社の元々の本業は機械部品の製造です。

なぜ、新たな領域に挑むのか。
チャレンジを続ける町工場のアトツギに、ものづくりへの想いを聞きました。


12月、キャナルシティ博多にて

「・・・」

思わず息を呑む。

壁いっぱいに映し出されるプロジェクションマッピングや噴水、雪の演出が一体になったショーの中でも、一際目立つ銀色のオブジェ。

福岡市博多区の商業施設・キャナルシティ博多で開催中の「CANAL CHRISTMAS MIRACLE OF LIGHT」は、平日にも関わらず多くの家族連れや観光客で賑わっていた。

ショーの主役、「light of hope(希望の光)」と名付けられたオブジェは、様々な色に変化し続け観衆を魅了した。

異世界にいるような、あっという間の10分間だった。

https://canalcity.co.jp/news/event/4225

イベントは12月25日まで上演


モトムットでは今回、この光のオブジェの製作に関わった町工場を訪ねた。
柳川市大和町明野、のどかな田園地帯にある石橋鉄工所

金属を回転させながら「削り」や「穴あけ」等を施す「旋盤加工」を得意とする会社だ。
油圧バルブや車のシャフトなど、様々な部品を作ってきた。

町工場っぽくない(?)インスタ発信

石橋鉄工所に取材を申し込んだきっかけは、光のオブジェでも機械の部品でもなかった。
最初に知ったのは、おしゃれな日用品を日々発信する同社のインスタグラムだった。

一際目を引いたのがこのようなコースター。
幾何学的なデザインと高級感漂う光沢に釘付けになった。

その他にもカトラリーやアクセサリーなど、洗練されたプロダクトの数々が印象的だった。

国内、海外の展示会での出展も多いそうで、最初に依頼をしてから半年近く経ち、ようやく取材にこぎつけることができた。

創業38年目で立ち上げた自社ブランド

ブランド名はμnimet(ユニメット)
石橋鉄工所として初めての、一般消費者向け(BtoC)ブランドだ。

μ=ミクロン、unique=ユニーク、metal=メタル

精緻を極めた品質と唯一無二のデザイン性を追求するという気概が、ブランド名に込められている。
μnimet立ち上げの背景を、現社長で2代目の石橋輝喜さんに聞いた。

輝喜さん
「もともとうちは、建設機械や農機具の部品製造の請け負いの仕事がほとんどだったのですが、2009年のリーマンショックで売上が激減した時期がありました。その際できた時間を使って、BtoC商材をいろいろと試作しました」

最初に作ったのはスーツのカフスボタンだったという。

その後も、本業の機械部品製造の傍らで少しずつ試作を続けた。
2014年には、初めてコースターを製作。これが現在のμnimetの原型ともいえる。

左が初代コースター、右がμnimetのコースター

輝喜さん
「冷たいグラスに紙のコースターがくっつくのが嫌で、金属ならそのストレスが解消できるかなと思い試作しました。ただ、最初の試作品は重くてダサくて、いろんな方から『売れるわけない』と反対されました(笑)」

一度は試作までしたコースターだったが、部品関連の仕事が忙しいこともあり、しばらく開発はストップしていた。

一気に前進!デザイナーの参画と設備投資

輝喜さん
「2019年頃から少し時間に余裕ができて、これまでのアイデアを整理することができました。自分の中で”覚悟”も生まれてきました」

2020年にかけて、ブランド立ち上げに向けた開発は一気に動き出す。

開発にデザイナーが参画し、ブランドコンセプトから一緒に考えることに。
コースターもすっきり軽量化したデザインに改良していった。

2020年にはファイバーレーザー切断機 ※も導入し、より精巧で効率的な生産が可能に。
いよいよブランドをリリースする準備が整った。

※高出力のファイバーレーザーを用いて、金属等の材料を切断したり穴あけを行ったりする機械。高い精度と効率で、繊細にカッティングすることが可能。

2021年2月のμnimetリリースと同時にネットでの販売も開始。
各地の展示会への出店も積極的に行ってきたほか、2023年には新工場を併設したショールームもオープンした。

μnimetの知名度は日に日に高まり、現在では月に約250点を売り上げるまでに成長した。

輝喜さん
「展示会に行くたびにお客様が増えていきました。レーザー(切断機)を導入する初期投資にはかなりの費用がかかりましたが、その分開発スピードも早く、お客様オリジナルのデザインにも対応できています」

できあがった商品は一つ一つ丁寧に磨き上げ、ユーザーの元へ届けられる。

「次男だし、継ぐつもりはなかった」

創業者の父から家業を継いだ輝喜さんだが、普通高校を卒業した後も専門学校でインテリアデザインを学ぶなど、元々はアトツギになるつもりではなかったそうだ。

輝喜さん
「兄と妹は工業高校だったのですが(笑)私が20歳で家業を継ぐことになりました。デザイン学校で製図や模型を作っていたのですが、今となってはその経験がμnimetの発想につながっていると思います」

既存事業にとらわれない自由な発想から生まれたμnimetだが、こうしたBtoCブランドは町工場にどんな好影響を与えているのだろうか。

輝喜さん
「売上よりも、一番は ”やりがい” ですね。手に取ったお客さんから直接連絡があったりすることは、BtoBではほとんどないので」

売上について言えば、μnimet事業は会社全体の2割程度だという。

従来のBtoB事業だけでも経営は安定しているなか、「多くの人に見てもらえる」BtoC商材が従業員のモチベーションアップにも寄与しているそうだ。

μnimetのネックレスの開発は、女性スタッフだけで行っている

「得意分野で協業」アトツギが見据える鉄工所の未来

「多くの人に見てもらえる」という点でいえば、冒頭で紹介したクリスマスのオブジェもその一つだ。
デザイナーが作成した図面を、加工プロセスに合わせて石橋鉄工所が修正し、近隣の3つの鉄工所と連携しながら短期間で完成させたという。

製作指揮は輝喜さんが担い、仮組みも石橋鉄工所で行われた。
同業他社を巻き込んで、ここまで大掛かりな製作に取り組んだのは今回が初めてだそうだ。

輝喜さん
「鉄工所と言っても得意な作業がそれぞれ違うんです。溶接が得意なところもあれば、うちみたいに旋盤加工が得意なところもある。これからは一つの仕事を、地域の鉄工所が協業してワンチームで取り組んでいく時代かなと思います」

今後は会社の垣根を越えた様々なプロジェクトも計画しているという。
取材の最後に、「光のオブジェ」を協業でつくり終えた感想を聞いた。

輝喜さん
「見た目が複雑で、最初に意匠図や模型を見た時は『ん?どこがどうなってると?』という感じでした(笑) 完成後のプレス発表では、自分たちが関わった作品を多くの方に見ていただけて、仲間たちと『ものづくりも捨てたもんじゃないな』という想いを共有できました」

クリスマスショーは12月25日までキャナルシティ博多で上演される。
独創的なデザインと圧倒的な輝きをぜひ、現地で確かめていただきたい。

変革と協業に取り組みながら、地域の町工場は次のステージへ向かっている。

製作に関わった鉄工所の仲間やその家族と

μnimetのブランドHPはこちら!

モトムットは筑後地区で新しいチャレンジを続ける企業を応援しています。


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