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GOATを買いに。

11月27日の会社帰り、阿佐ヶ谷駅を降りて、近くの本屋さんに向かった。
心の中の腕が、ブンブンと振り回っている気がするからか、すぐ目の前に見えているはずの本屋さんがやけにじれったく感じ、途中からは走って向かっていて、走っていることを自覚して少し照れた。

照れが残ったまま店内に入ると、明るい店内と静かな空気に落ち着かなくなった。
店の手前に置かれてある旅行雑誌を凝視して、あ、旅行雑誌ではないか。と思い、その後ろの棚のファッション雑誌をスルーして、その横に置かれてある「SPECTATOR」はどういう種類の雑誌?と疑問に思い、お店の奥の小説コーナーに行こうとして、小説ではないんだよなと思って立ちどまった。

文芸雑誌がどこかにあるか分からない。
今まで買ったことが無いからだ。

趣味のコーナーなどを経て、やっと文芸雑誌コーナーを見つけた。
そこでまた棚を凝視する。
無い。
目当てのものが無い。

私は少し不安と、無いわけないよね?という、ハズレのお客さんのようなことを思いながら、店員さんにそわそわと話しかけた。
「あの、文芸雑誌のGOATって本ありますか。」

言ったそばから、「ゴート」で通じたかな。
ジーオーエーティーでゴートですって補足した方がいいかな。
と思っていると、
「在庫があるようなので、少々お待ちください。」と言われた。
私の頭の中のハズレのお客さんが、そっと拳を下げるのが分かった。

と言っても、さっき私も見た棚にはやはりなかったので、もう一人の店員さんが出てきた。
もう一人の店員さんが、上の棚をもう一度見たあと、スムーズに棚の下の引き出しを開けると、あった。

「ありました……。」
店員さんが、赤子を起こさないくらいの小さくて温かい声で言った。

「よかった……。」
私も赤子を起こさない。


こうして私は文芸誌「GOAT」を手に入れた。

今年の7月くらいだろうか、GOATという新しい文芸雑誌が発売されるということを知って、本当にびっくりして感動してしまった。
それからこの日まで、ずっと楽しみにしていた。

この時代に、新しい文芸雑誌を作る。紙で!!!!!
かっこ良すぎる。

いや〜、かっこいい。。。

無駄の削減とか、時間の節約とか、そういったことが良しとされる時代に……。
軽くて薄いものが良しとされる時代に……。

いや、紙の本好きなんで!!!!!!!!

と叫ぶことに決めたこの文芸誌に、感謝、と同時にこちらも大きな声で、
それな!!!!!!!!!!!!!!!!!
と、叫んでいます。


もう一つ感じたことがあった。

GOAT創刊の記事を読んだ時、そこに書かれていた、錚々たる著者名(西加奈子、小川哲、市川沙央、最果タヒ、野崎まど、チョン・セラン、尾崎世界観、金原ひとみ…などなど)を見ながら、社会人として生きてきて初めて、社会って面白そうと思った。

それは自分がすごいと思ってきた人達が関わっているからそう思うのか、同じ時代を見てきた人達だからそう思うのか、どうしてだか分からないけど、
この文芸誌は明るい希望に満ちていて、暗い復讐も孕んでいる。と感じたのだ。

大人が本気で面白そうなことをしていて、本気で社会を変えようとしているかもしれない、それも、文章で。

そんなのかっこ良すぎる!!!


これからも今日のように、毎月の楽しみができたわくわくを感じつつ、秘密結社の作戦会議に行くような力強い足取りで本屋に向かおうと思う。



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