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世界が注目する「ウェルビーイング」。well-beingが注目される背景を知ろう。

テクノロジーが進化し効率化が進む一方で世界中のあらゆる領域で進行している「分断」。便利さと豊かさが必ずしも比例しない時代のなかで、分断を乗り越えて共鳴する仲間と集いながら何かを実現していくこと。それが、人が豊に生きていくうえで重要な局面にきているのかもしれない。

ウェルビーイングって?

「ウェルビーイング」(well-being)とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、「幸福」と翻訳されることも多い言葉です。世界保健機関(WHO)憲章の前文では、「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいいます」とされています。

さまざまな調査から、自分が幸せだと感じる従業員は、創造的で業務のパフォーマンスが高く、組織に良い影響をもたらすことがわかっています。ウェルビーイングでは「心身ともに健康であること」が重要で、後述する「健康経営」とも深い関係性があります。

ウェルビーイングとウェルフェアの違い

ウェルビーイングと似た言葉にウェルフェア(welfare)がありますが、似ているようで異なります。ウェルフェアは「福祉」と翻訳されることもありますが、主に「福利厚生」として認識されています。

福利厚生は給与以外で従業員や家族に提供される制度や仕組みのことで、社会保険などの法定福利厚生と、家賃補助や社員食堂といった法定外福利厚生があり、「ウェルフェアサービス」などと呼ばれることもあります。

どちらも従業員や家族の健康、働きがいを向上させるものではありますが、ウェルフェアがどちらかというと「手段」なのに対して、ウェルビーイングは「目的」となります。ウェルビーイングを実現させるために、さまざまなウェルフェアサービスがあると考えてよいでしょう。

ウェルビーイングに関する調査として有名なものの一つが、アメリカのギャラップ社の調査です。140を超える国や地域で行われる幸福度についての大規模な調査で、その調査軸は「体験」と「評価」の二つからなります。

体験は、五つのポジティブ体験(よく眠れた/敬意を持って接された/笑った/学び、興味/歓び)と、五つのネガティブ体験(体の痛み/心配/悲しい/ストレス/怒り)をしたかどうかとなっています。

評価は、自分の人生に対する自己評価を10段階で聞くものです。軸を体験と評価の二つに分けている理由は、人間が直近の体験の影響を受けやすいためです。なるべく印象のバイアスを取り除くため、体験と評価を聞くようにしています。

また、同調査は世界幸福度ランキングでも活用されています。世界幸福度ランキングは、国連の持続的な開発ソリューションネットワーク(SDSN)が発表する調査です。この調査ではギャラップ社のデータのうち「評価」の項目を指標として使っています。国際幸福デーである2020年3月20日に発表された調査では、1位がフィンランド日本は62位となっており、決して高い順位とはいえません。2019年の調査では58位であり、4ランク後退したことになります。

世界幸福度ランキングには、他にも下記の設問の解答が反映されています。世界幸福度ランキングの設問例
1人あたりのGDP
平均余命
人生で何をするか選択の自由があるか
政府機関の腐敗
昨日楽しかったか

ウェルビーイングに注目が集まっている背景をみていく

価値観の多様化:

価値観の多様化ダイバーシティという言葉に代表されるように、価値観は加速度的に多様化しています。性別や国籍、文化など、さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まり、ともに仕事をするようになりました。こうしたことから、企業経営においては、従業員の多様性を尊重することの重要性が高まっています。多様性を尊重することでさまざまなビジネスアイデアが生まれたり、コミュニケーションが活発になったりする側面が大いにあるからです。

企業が従業員の多様性を受け入れ、異なる価値観やバックグラウンドを持つ人材がその能力をフルに発揮するための環境を整備することは、従業員の幸福感を増し、ひいては企業の競争力を高め、イノベーションにもつながります。

人材不足や人材の流動性の高まり:
2020年における子どもの出生数が、85万人を切る見通しとなることが報道されました。この数字は1899年以降の統計上でも、最少の数字となっています。国内では少子高齢化が加速し、中長期的に見て深刻な人材不足に陥ることが予測されています。

終身雇用という概念は希薄になり、若者を中心に、価値観に合う組織を求め転職することが一般化しました。企業において、事業に貢献する人材の確保やリテンションは大きな課題といえるでしょう。

企業は利益だけでなく、従業員やその家族に対する幸福を追求する姿勢も、明確にする必要があります。そうすることで、企業に対する従業員の帰属意識やロイヤリティが高まり、従業員へのリテンションにつなげられます。

働き方改革の推進:
安倍内閣が推進し、2019年4月からスタートした働き方改革。残業時間の上限規制や、産業医の機能強化、同一労働・同一賃金の適用などを定めるものです。企業は、多様な価値観やライフスタイルを持つ従業員が働きやすい環境を整備する必要があります。

また、昨今の人材採用は競争が激しくなり、マーケティング戦略を明確にすることの重要さが増しています。テレワークや副業が可能であるなど、魅力的な労働環境を整備することは、優秀な人材を確保することにもつながります。企業は、どのような働き方であれば従業員の幸福度が増してやりがいを感じるのかといった観点で、制度や仕組みを検討する必要があります。

新型コロナウイルス感染症の拡大:
2020年に起こった新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの社会や仕事を大きく変えることになりました。自分や家族の幸福について、あらためて考えさせられた人も多いのではないでしょうか。

急速に普及したテレワークは業務効率化につながりましたが、同時に新たな問題点やストレスも表面化しました。コミュニケーションが断絶した中での業務に、メンタルの不調を訴える従業員もいます。そのため、従業員やその家族が健康でやりがいを持って仕事をするための考え方として「ウェルビーイング」に対する注目が高まっているのです。

SDGsでの言及:
SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が近年よく聞かれるようになりました。SDGsとは、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際的な目標のことで、2015年9月の国連サミットで採択されました。

SDGsでは17のゴールと169のターゲットが定められています。この目標の一つには「GOOD HEALTH AND WELL-BEING」があり、ウェルビーイングが注目されていることがわかります。

ムーンショット型研究開発制度:
内閣府によるムーンショット型研究開発制度は、社会・環境・経済の課題を解決するための「破壊的イノベーションの創出」を推進するための制度です。「2040年までに主要な疾患を予防・克服し、100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現」という目標に代表されるように、テクノロジーとイノベーションによって「Human Well-being」を目指すとしています。2020年9月から11月にかけては、新たな目標検討のためのビジョン公募も行われました。

企業にとってもメリットの多いウェルビーイング

企業にとってウェルビーイングはどれほど重要で、どのようなメリットをもたらしてくれるのでしょうか。

健康経営の推進:経済産業省では、健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」としています。従業員の健康管理に取り組むことを投資と考え、業績向上に結びつける考え方です。

大手企業やスタートアップをはじめとして、福利厚生の充実や柔軟な働き方を認める形で健康経営を目指す企業が増えつつあります。

ウェルビーイングは健康増進だけでなく、その概念はモチベーション管理など精神面にも及びます。ウェルビーイングを推進することは、同時に健康経営にもつながるでしょう。

EVP(従業員価値提案)の向上:EVPはEmployee Value Propositionの略で「従業員価値提案」とも呼ばれ、企業が従業員あるいは求職者に提示する価値のことです。昨今、EVPを設定している企業としていない企業では、人材活用や採用などにおいて大きな差が生じつつあります。

ウェルビーイングを推進することは、EVPの向上にもつながります。EVPが高まることによって、従業員に対してだけでなく、人材採用においても好影響が期待できるでしょう。

ワークエンゲージメントの向上:ウェルビーイングの推進は、ワークエンゲージメントの向上にもつなげることができます。従業員の健康だけにフォーカスするのではなく、組織の中において健全に「やりがい」を持って仕事に取り組めているかも重要なポイントです。

例えば、ギャラップ社の12の質問やeNPS(エンプロイー・ネット・プロモーター・スコア)などのサーベイで、「やりがい」を可視化するのも有効な手段です。

生産性向上:ウェルビーイングなどの取り組みにより、ワークエンゲージメントが高まれば、組織の生産性向上も期待できます。厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」ではワークエンゲージメントと生産性の相関関係が示されています。

ウェルビーイングの取り組みだけで、ワークエンゲージメントが高められるわけではありませんが、大きな構成要素の一つであることは間違いありません。組織におけるハイパフォーマーを増やすためにも、社員のウェルビーイング促進に取り組むことは、価値があるといえるでしょう。

リモートワークが急速に普及しつつある現状では、オンラインによるコミュニケーション機会をどのようにアレンジするかも重要になってきます。

読んでくれてありがとうございます! 頑張っているチームのみんなに夜食をご馳走しようと思います。