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留学して身についたものBEST3:第2位コミュニケーション力

前稿から留学して身についたものBEST3を書いている。第3位は「英語力」だった。
この項では第2位について書く。

第2位はコミュニケーション力(傾聴力)だ。

英語力とは違う。

前稿で書いたように、もともと英語が苦手な僕は、留学という「自分を追い込む環境」に置かれて泣く思いを何年かして、やっとなんとか英語でコミュニケーションをとれるようになってきた。

しかし、発音は相変わらず日本語訛りだし、話すことを事前に準備していない場合には、まともに話せない。即興でのスピーチは、多分日本語の10%程度のレベルだろう。

それでも何とか現在英語で仕事ができているのは、「コミュニケーション力」のおかげだと思う。

留学時代、英語が少しできるようになって、他の同期の大学院生や教授の話していることが分かるようになってきたら、彼らの言っている内容が間違っている、と思うことが多くなった。

そうすると反論してみたくなる。だが、英語力がなくてできない。悔しい思いを何度もした。

「日本語で議論できるなら、こんな幼稚な考えなんて論破してやるのに!」

そしてある日気づいた。

「日本語ならば俺はどうやって論破する?」

「その日本語は本当に論理的なのか?」

「本当に『幼稚な考え』ならば、英語でだって論破できるはずじゃないか?」

「俺は『日本語ならば論理的に考えられる』という思い込みを持ってるだけじゃないのか?」

ネット上で、無茶苦茶な論理を振りかざして「論破した」と吠えているような人々と、自分とでは、メンタリティは同じなんじゃないだろうか。そのことに気づいた。

人の上げ足を取ったり、矛盾点を執拗に攻撃したり、感情的に人格攻撃するような「非論理的」な議論をするような人々もたぶん「俺の方が頭がいい」と思い込んでるのだと思う。

そう思うのは自由だが、ゴールを「相手を論破する」ことに置いているのは、間違っている。

本来、議論とは参加している人々が「新たな気づき」を共有するための行うものだ。つまり、議論に参加している個々の人は、もともと不完全な論理しかなく、矛盾を抱えているのはおかしいことではない。少しでも完全に近づき、矛盾を少しでも解消し、考え方を発展させるために、コミュニケーションがあるのだ、という当たり前のことに、留学3年目にして初めて気づいた。

それから、相手の話をもっとしっかりと尊重して聞くようになった。それはただ、うんうんとうなずくのではない。わからなければ質問し、相手の考えを自分のものにしようと努めるのだ。

このことは簡単に言えば、臨床心理学でいうアクティブリスニング(積極的傾聴)を実践するということだ。アクティブリスニングとは、相手に共感性をもちながら、自発的な発言を促し、より積極的な心の開示を図る手法である。

つまり、相手が気持ちよく話ができるように、相槌をうったり、より詳しい話を促す質問をしていき、相手の目線やしぐさや表情から、心の動態を読み取る手法だ。

臨床心理では、目線やしぐさや声のトーンなど、ありとあらゆる非言語的な部分にも注目するが、普段のコミュニケーションではカウンセリングをしているわけではないので、それほどまでに注意を払う必要はない。

むしろ話の内容に集中し、そのロジックや前提などをくみ取れるように、相手を促していく。

実はそんなに難しいことではない。相手の話に「おおっ、そうなの?それで?」というように興味を示して、より詳しい話を引き出し、話がそれてきたら修正するような質問をいれていくだけでも相当のことができる。これを英語でやる。

そしてよく聞くと、たまに相手の話の内容も無茶苦茶な時がある。英語はわかるが意味が分からないという状態だ。留学当初は自分の英語力がないから理解できてないと思っていたのが、相手が論理矛盾を起こしたり感情的になりすぎた場合がきちんと見えてくるようになった。

相手の話をしっかり聞くことは、翻って自分の英語を話すときにも役立ってくる。平たい話、話の上手いネイティブの手法を真似するのだ。話し方や発音を真似するというよりも、話の組み立て方やロジックを真似する。それができるのもまずはアクティブリスニングを始めてからだ。

そしてそれに慣れてくると同時にクリティカルシンキングも鍛えられる。
ネイティブのような英語の発音をしたり、気の利いた言い回しを覚えても、上記のような話の組み立てができなければ、コミュニケーションはできない。これは言語にかかわらず、日本語を話している時でも同様だ。

このことに気づいてから、僕は英語のコミュニケーションだけでなく日本語がずいぶん上達した。つまり、今英語を話す環境にない人でも、日本語で練習できることなのだ。

僕は留学して英語を見つける過程でこのことにやっと気づいたが、もっと賢い人は日本にいるときに日本語でこういう訓練をしているはずだ。それは誰でも今からすぐに始められることだ。皆さんにお勧めしたい。

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