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失敗しない親子留学のために

失敗しない留学のために

文筆家で、自らもご長男さんを留学させてきた野本響子さんも書いているように、留学に正解はない。その時々でベターだと思われる決定をするしかない。例えばマレーシアでは日本よりも、圧倒的に教育制度の種類が多いので、何が本当に自分の子供を伸ばすのによい教育かを考えるのは大変だ。

僕には、今まで書いてきた小学生の姉弟の他に、実はもう一人、彼らよりずっと年上の息子がいる。彼は日本で生まれ育ち、日本のインターナショナルスクールを卒業し、カナダの大学に留学した。卒業後日本に戻り、今は社会人として働いている。

彼が小さかったころは、親子留学などという選択肢はなかったため、いろいろと考えた末に国内のインターに入れた。その時の基準は、授業料が払える範囲でかつ通える範囲、というだけのものだった。たまたま近くにあったその学校が採用していたのは、カナダのオンタリオプログラムだった。カナダの大学に行くにはそのプログラムが有利なこともあって、長男はカナダの大学に行くことができた。

その時点では、オンタリオプログラムもとてもいいと思った。というか、今でもそれは思っている。ただ、もしまた長男を、この現代で育て直すと仮定するなら、今なら国際IBを選ぶかもしれない。

つまり、子供にとって何がよいプログラムなのか、どんな選択が可能なのか、ということは、子供とプログラムとの相性、その時々の家庭の事情、時世、そして運によって決まってしまう部分が多々ある。

その中で、「学校選びの何が正解か?」を決めることは難しく、僕にも回答はできない。

だが、「これだけは不正解だ」ということはいくつかある。今日はその点について、僕の経験からわかったことを書きたい。そしてこれは国際IB留学に限ったことではない。すべての海外留学に当てはまると思う。

留学で失敗した(少なくとも成功したとは言い難い)ケースには、僕が見てきた限り、ある種のパターンがある。その中には、お子さんの不適応という場合もあるが、(少なくとも小中学生の親子留学については)多くは親の決定がもたらすものだと思っている。そのすべてではないが、僕が知っているケースを挙げたい。


1:最初から「学校」を選ぼうとする

我が家の場合、僕の仕事の都合で住む場所が決まっていたため、物理的に通える学校の中からベストと思われるものを探すしか方法がなかった。

それに対し、日本から留学するために来る方々には、もっと多くの選択肢がある。留学前の最初のゴールは「子供にとって最もよい学校」を探すことになるだろう。しかし、いきなり「どの学校がいいですか?」と考えるのは、それこそよくない。

以前に書いたクリティカルシンキングを実践するのだ。まず問うのは「自分の子によって本当に良い教育プログラムとは何か?」という根本的な問いだ?

子供に何を学んでほしいのか?それはなぜか?そのためにはどのような教育プログラムが理想か?その理想に近いのは現実的に選べる中でどのプログラムなのか?

こういった問いは人によって違うので、考え方も優先順位も人によって違ってくるだろう。それでいい。留学させる最大のメリットは、(少なくとも日本にとどまっているよりは)子供の個性を生かした教育を与えることにあるからだ。

そのうえで、具体的に自分の子供が異国の環境の中で実力を伸ばすには、どんな環境と、どんなプログラムが必要か、を考えるべきだ。学校自体ではなく、環境とプログラムである。環境とは、例えば全寮制であるとか、通学時間であるとか、費用などである。プログラムは文字通り、学習プログラム、学習目的、目的を実践するためのカリキュラムや設備、日々の、そして定期的な評価方式などを詳しく調べて、自分の子供に適しているかどうかを調べる。

それをする際にも、いきなり学校のパンフレットを見たりしない方がいい。学校のパンフレットを先に見てしまうと、ああここがいいな、素敵だな、などとついつい「本来重要ではない情報」に惑わされるからだ。もともとパンフレットにはいいことしか書いていない。書いている情報が入学したとたん変わる学校も多い。

パンフレットを見るなとは言わないが、あらかじめ、どんなプログラムがいいか、学校選びの際には何を優先事項にするかを決めたうえで、参考程度に見ることが重要だ。


2:エージェントに間違った頼り方をする


以上のことをやろうとすると、自分で英語の情報を探さなくてはいけない。本来、子供に英語環境を与えようとする親なら、自らも英語環境に飛び込んで、その程度の情報ザッピングなら、自分でするのが当たり前という覚悟が必要だ。

とはいえ、現実にはなかなか難しいだろう。そのため、多くの人は留学エージェントを通して学校を決定することが多い。

エージェントを使うときには、少なくとも以下の4つが重要だと僕は思っている。

① エージェントに決定を委ねない(答えを求めない)
② エージェントは「情報の引き出し」として使う
③ エージェントにとっても、良いクライアントであろうとする
④ ひとり、もしくはひとつのエージェントに固執しない

①と②はセットで重要だ。そして一番失敗するパターンがこれだと思っている。エージェントに対して「どこがお勧めですか?」とすぐに尋ねて答えを求めようとするパターンだ。

どの学校に子供を留学させるかの意思決定をするのは親だ。子供のことを最もよく知り、子供のために最善の意思決定を行うモティベーションを持っているのは親だからだ。そして、その決定に対する全責任も親が負わねばならないのも当然だ。

エージェントは多くの場合、いくつかの学校とマージン契約を結んでいたり、ある学校に入学させるとキックバックをもらえるようになっている。エージェントもボランティアでやっているわけではないので、それは致し方ない。

重要なのは、そのようなエージェントの中でも、キックバックのことしか考えず、子供の適正など軽視して、自分の契約している学校に入れようとするエージェントと、キックバック契約はあるが、その子に最も向いた学校を探すことを優先してくれるエージェントがいることだ。

クライアントとしては、当然後者のエージェントに相談したいだろう。ではどうすれば、いいのか。

ひとつは、1と同じで「いきなり学校を決めようとしない」ことだ。どの学校が子供に適しているかという答えにマニュアルはない。ひとりひとり基準も、環境も、性格も、考え方も違うからだ。だからクライアントには、自分の子がどういう子で、どんなプログラムならば適しているのか相談すべきで、その議論を十分に尽くしてから、学校選びに入るべきだ。

お金儲け第一のエージェントは、2,3の典型的な質問をした後、すぐに学校名を出すことが多い。典型的な質問とは「お子さんの英語の実力はどうですか?現地でやっていける自信はありますか?」「予算はどれくらいですか?」「日本にはどれくらいで戻りますか?」などというものだ。


そういうエージェントを避けるためにも、1で述べたように、自分でできるだけの下調べをしておくことが重要だ。今はネットでいくらでも探せる。英語が苦手ならグーグル翻訳でも何でも駆使して、できるだけの情報を得ておく。


きちんとしたエージェントならば、もっと多くの質問と、もっと根本的な質問、「この留学によってお子さんに学ばせたい一番重要ことは何ですか?」といったこと尋ね、そのうえで「一緒に考え」てくれるはずだ。持っている希望がすべてかなうようなことはまずありえないのだから、最も重視すべき基準は何かを一緒に探し、選択可能なオプションの中で何がベターかを示してくれる。

つまりエージェントからもらうのは、学校選びの決定のために必要な情報が主であって、アドバイスは2の次である。情報を聞かないでアドバイスばかり求めるようでは、失敗する確率の方が高いと思う。


良いエージェントならば、できるだけ有効な情報をバイアスのかからない形でくれるはずだ。情報もそこそこに「いやそこはあまりよくないと思いますよ」とアドバイスを前面に出すエージェントは僕は信じないことにしている。


そして最終決定は自分で行う。エージェントに任せてはいけない。もちろんエージェントの意見は参考にはすべきだが、「エージェントが勧めたから」を学校選びの最大の理由にしている人で、留学に成功した人を僕は見たことがない。


そして③の、良いエージェントだと思ったら、よいクライアントとして振る舞うべきだ。よいエージェントだからといって、何もかも頼る人がいる。それではだめだ。学校が始まったら、子供たちは新しい環境でプレッシャーと不安の中、今までにない体験をするのだ。親ならば、そんな子供たちにとって頼れる存在になるべく、しっかり意思決定をしなくてはならない。住居選びから、電気やWifiの引き方まで、生活全般をすべて留学エージェントに頼ろうとする人がいる。そういう人は、いざ留学が始まっても、自分のことで手一杯で不安が拭えず、子供を守るどころではないだろう。


親ならば子供以上の覚悟をもって留学に臨むのは当然のことだ。


そして最後④として、良いエージェントではないと思ったら、すぐに別を探したほうがいい。僕の知り合いには、僕の目から見て決していいとは言えないエージェントのことを信じ込み、お子さんに決して合っているとは思えない学校を選んだだけじゃなく、そのエージェントの口車に乗って相場よりも高い値段で近隣のコンド部屋を紹介された人がいた。結局、全部支払ってから、もっと良い条件の学校や住居があったことを知ったが、すでにお金を使ってしまったため不本意な留学に終わった母子もいる。


そのようなことにならないよう、留学への船の舵は自分が握っていることを親は忘れてはならないと思う。

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