見出し画像

【書籍紹介】ファンベース 佐藤尚之著

動画版は、こちら。

本書は、元電通のプランナーであり、「明日の広告」、「明日のプランニング」等の著者でもある佐藤尚之さんによる著作。

著者が提唱するファンベースとは、ファンを大切にし、ファンをベースにして中長期的に売上や価値を上げていく考え方です。

著者の佐藤さんは、この様に説明しています。

ボクも広告コミュニケーション業界で30年以上やってきて、新規顧客を狙ったプランニングを数多くやってきたし、大きなパイを意識することも長かった。ファンの存在もずっと目に入っていなかったし、それはどこか別の部署が担当することだと思っていた。マス広告全盛時代はもちろん、ネット時代に入ってもそういうアプローチで良かったし、実際、売上アップや業績反映にも貢献できたと思う。

でも、明らかに状況が変わった。 時代的にも社会的にも、新規顧客を狙うアプローチだけでは売上を増やすのが難しくなってきており、その解決法としてファンベースという考え方が必要で、今や早急に実施すべきフェーズにある。

SNSの普及と共に、バズらせて話題化することで広告費を効率化することができると注目されました。ところが、どんなにバズっても一過性で終わることが多く、時が経つと簡単に忘れ去られる。また、バズることが売上に直結しないという事例も多発。

そこで、一過性のキャンペーンから、ストック型のキャンペーンへとトレンドがシフトしていきました。これぞ、ファンベースを活用したファンベースマーケティングと言えます。

本書では、ファンベースが必然な理由として以下3点が挙げられています。

  1. ファンは売上の大半を支え、伸ばしてくれるから。

  2. 時代的、社会的にファンを大切にすることがより重要になってきたから。

  3. ファンが新たなファンを作ってくれるから。

ある飲料メーカーでは、8%のコアファンが46%の売上を支えているそうです。コアファンに通常のファンも加えると売上の約90%を支えるに至ります。カゴメでは、年間8万円以上カゴメ商品を購入する2.5%のコアファンが、売上の30~40%を占めるそうです。

20%の人が80%の売上を支えるとして有名なパレートの法則を想起された方も多いのではないでしょうか?

上述のカゴメでは、このコアファンが離れつつあるという危機感から、コアファン限定のコミュニティーを立ち上げ、繋がりの強化を図ったそうです。

当社が志向しているのは、何百万人、何十万人といった会員数の規模をウリにするコミュニティではなく、間違いなくカゴメ商品が大好きで実際に日々ご購入いただいている上得意顧客が集まる場を作ること

ソニーはαというデジタル一眼カメラで、商品購入後のケアを手厚くすることで大きく売上を伸ばすことに成功しました。商品の使用頻度を上げることが、周辺機器購入というクロスセルや上位機種購入というアップセルに繋がるとの考え方。

具体的には、顧客が商品を購入した後、3か月以内に3回以上コンタクトを実施します。高度なユーザーから初心者まで、ユーザーのレベルに応じた最適なコンテンツをメールで配信します。

また、オンライン上で既存顧客同士のコミュニケーションを促進したり、リアル拠点であるソニーストアを活用し、使い方講座、テーマ別撮影講座、お出かけ撮影体験会、新商品先行体験会等を実施しています。その結果、オンラインでのつながりをきっかけに、体験会で実際に会って交流するファンもたくさん生まれているそうです。

オンラインのコミュニケーションに力点が置かれる中で、わざわざソニーストアに足を運んで来てくださるファンは、ソニーにとって一番熱いファンであり、特に大事にしています。

2点目の時代的、社会的背景に関しては、人口減、高齢化社会、成熟社会、情報爆発等で、新規顧客獲得ありきのマーケティングが通用しなくなってきたことに触れています。

3点目のファンがファンを連れてきてくれる。これは、先述の情報爆発にも関連しています。大半の情報は埋もれてしまい届かないけれど、親しい友人のメッセージは届きやすい。

友人とは、言い換えると価値観が近い人。価値観が近い人がツボにはまるコンテンツは自分もはまる可能性が高い。価値観が近い友人が熱中するコトは自分も熱中する可能性が高い。

こうした友人からのクチコミで、これまで関心がなかった商品やサービスに興味を持ち、購入に至ることも珍しくないです。

たった100人のファンが母数だったとしても類友や友人の繋がり連鎖で、あっと言う間に数万、数十万、数百万と広がっていく可能性は十分にあります。

そういう意味で、短期施策や単発施策の予算がなかったり、事業規模が小さな企業であっても、ブランド力が強く、コアファンが既に多くいる企業が、今いるファンに注力し、中長期ファンベース施策だけで展開していくことも可能であると著者は主張します。

■ファンの支持を強くする3つのアプローチ。共感、愛着、信頼。

少数のファンの支持を強くして、LTVをじわじわ上げていく施策がファンベース施策です。そのためには共感、愛着、信頼の3つのアプローチがあります。そして、これらの施策を打つことは、短期、単発施策などでファンの入り口に立った人をファンに育てることにもつながっていきます。

商品を買ってくれた人はすべてがファンと考えがちな人が多いですが、実際は買ってくれた人の20%程度がファンになります。更に、コアファンとなると4%程度とお考え下さい。

■ファンの支持を強くするための3カ条。

  1. その価値自体をアップさせる。共感

  2. その価値を、他に代えがたいものにする。愛着

  3. 価値の提供元の評価、評判をアップさせる。信頼

カフェを例にすると、以下の説明となります。まず、我が家みたいにくつろげるという価値に共感してもらう。

次に、我が家みたいにくつろげるという価値を、他店では得られないあなたの店だけの特別な体験に変える。これにより愛着が生まれる。

最後に、その価値を提供しているあなた自身の評判を上げる。日々の努力の積み重ねで、顧客との信頼を強化していく。

■共感を強くする

  1. ファンの言葉を傾聴し、フォーカスする。

  2. ファンであることに自信を持ってもらう。

  3. ファンを喜ばせる。新規顧客より優先する。

出発点は、ファンから愛されている、共感されているポイントを知ること。実は、これが意外とできていない。つい、企業視点で、このポイントが好かれるであろうと考えてしまいがち。

では、どの様に愛されポイントを見つければ良いのか?実は調査をしても中々出てこない。改めて聞かれるとファン自身も言語化できないことが多いからです。

そこで、著者のお薦めはファンミーティング。

ファンミーティングは宝の山なのだ。企業にとって有益なヒントがたくさん埋まっている。買ってくれた人の中の20%のファンが、どういう傾向があり、どんな話題で盛り上がり、何を望んでいるか。これを知らずにファンベース施策は始まらない。

企業はすべからくファンミーティングを行い、ファンに愛される理由をしっかり知った上で、今後の具体的なファンベース施策の企画に役立てるべきなのである。

ファンミーティングには、ファン度の高い真のファンを選別して招集することが重要。熱量が低い人が紛れ込むと、他の参加者は敏感に感じ取ります。その為には、面倒なアンケートに答えてもらう、交通費自腹で来てもらう等、参加のハードルを高くすると良いと著者はアドバイスします。

ファンミーティングの具体的な進行例も記載されています。

  1. 最初に企業側からの挨拶と感謝の言葉を伝える。プロの司会者を雇わず、社員が自ら司会を務める。あなた方は一番大切な方々であることを伝える。

  2. 商品に関するクイズ大会やトリビア大会。ファン同士が打ち解ける、アイスブレーキングも兼ねる。

  3. 知られざる商品開発ストーリーや開発者の本音を伝える。ファンが一番喜ぶ内容であり、身内感を感じられる瞬間でもある。ファンが更に熱狂し、心を開いていくことにも繋がる。

  4. ファン会議と発表。グループセッションを通じファン同士が絆を深める。企業側の人間も一緒に参加する。広告制作や新商品企画のアイデアの宝庫でもあるので、必ず事前にアイデアの使用許諾を得ておくこと。

  5. ファンから開発者や現場社員へのメッセージをもらう。ファンは承認されたと感じるし、社員のモチベーションアップにも繋がる。

  6. ファン認定証を受け取ってもらう。「あなたは公認のファンですよ」と認められるのは、自己承認に繋がり、今後、自主的にアンバサダーとして推奨活動を行ってくれることが期待できる。

  7. 記念撮影も忘れずに。

ファンに自信を持ってもらう。一瞬、奇異に感じるかも知れませんが、意外とファンであるけれど他人に勧めるほどの自信がないというケースがあります。

これに対しては、テレビ広告や企業や商品を紹介するPR記事、他のユーザーのクチコミ等を目にすると安心して推奨ができます。バズも企業側は認知の拡大、新規ユーザーの拡大を期待しますが、実は一番喜んでいるのは既存のファンであったりします。

ファンを喜ばせる。新規顧客より優先する。企業のマーケティング担当者は、新規獲得向けの施策を考えることが習慣化している為、常にファンを優先することを意識する必要があります。

著者は、企業担当者が無意識に使う「囲い込み」というワードにも警鐘を鳴らします。

いわゆる、囲い込んで刈り取ろうみたいな失礼なマーケティング的発想も変えた方がいい。「ファンコミュニティを作ってファンを囲い込みましょう」みたいな発想だ。

それは新規顧客を獲得するときの方法論だ。ちょっと考えればわかるが、商品を愛してくれる20%のファンを囲い込みする必要はないし、発信力のあるファンほど囲い込みを嫌う。

一冊まるごとファンベースの塊みたいな本「グレイトフルデッドにマーケティングを学ぶ」から、以下の引用が紹介されています。

企業はビジネスのやり方をひっくり返す必要がある。ファンである既存のお客さんを優遇し、情報を最初に知らせるべきだ。自社に対して時間とお金を費やしてくれている人に、あなたは大切な方ですと知らせよう。

■愛着を強くする

  1. 商品にストーリーやドラマを纏わせる。

  2. ファンとの接点を大切にし、改善する。

  3. ファンが参加できる場を増やし、活気づける。

モノがあふれている時代であっても、友人や恋人からのプレゼントは嬉しいものです。それは、プレゼントをしようと自分のことを考えてくれた思い、自分の為に使ってくれた時間や労力が嬉しいのです。

これは、企業や商品でも一緒と著者は解説します。

生活者の課題を解決するためにどれだけの思いがあったか。どれだけの人がそのプロジェクトに携わり、どのくらい時間をかけたのか。そして、どのくらい生活者のために試行錯誤し努力したのか。そういうストーリーやドラマが、ファンに愛着という感情が起こさせる

ファンとの接点を大切にする。例えばSNS。無料の広告媒体と考えるのではなく、ファンとの接点となり愛着を強めるツールと捉えて取り組む。

ファンコミュニティも同じ。決して、囲い込んで刈り取る場ではありません。ファンが参加、発信、交流できる場所を増やして愛着を強める場として設計、運営することが求められます。

レゴやアップルの様なマニアックな人気を博している特別な例を除くと、商品そのものを中心にファンコミュニティをつくるのは困難。商品ではなく、「大切にしている価値」にファンがつくと考える必要があります。

以下、ランニングシューズを例にした説明となります。

例えばランニングシューズのコミュニティを作りたいなら、シューズ好きではなくランニング好きに着目すべきだ。ランニングにおけるそのシューズメーカーの課題解決や価値提供を軸にコミュニティを作ると、それを支持しているファンが集まりやすい。

逆にシューズ自体を軸にしても、ばらならな価値観をもったシューズ好きが集まるだけなので、単なるシューズ比較や批評が増えて行き、そのメーカーのシューズについての盛り上がりは望めないだろう。

■信頼を強くする

  1. それは誠実なやり方か、自分に問いかける。

  2. 本業の細部まで見せ、丁寧に紹介する。

  3. 社員の信頼を大切にし、最強のファンにする。

ここまで、大切にしている価値に対する共感及び愛着が重要であると説明して来ました。次に大切なのが信頼。どんなに大切にしている価値が素晴らしくても、企業自体の評判が低くては、誰も相手にしてくれません。

一度、サイトを観たら地の底まで追いかけて来るリターゲティング広告。YouTube視聴中に割り込んできて30秒間スキップできない動画広告。解約を意図的に困難にしているサブスクサービス。

こうした誠実さにかけるアプローチは見直しが必要です。

細部まで見せる。企業の担当者は、つい、こんなもの見せてもニーズある?と考えてしまいがちです。確かに大勢の一般生活者にとってはその通りでしょう。ただし、20%のファンの方には、ここまで見せてくれてありがとうと信頼の醸成に繋がります。また、不都合なことを隠さず見せるのも同様の効果があります。

社員の信頼を大切にし、最強のファンにする。マーケティング担当者は、社外に目が向きがちです。一方、社員が推していない商品にファンがつくのでしょうか?

更に、不都合なことを隠す、改ざんするといった行為は、社員からのSNS匿名告発という形で暴露されるリスクが日に日に高まっています。

ファンベースを実践したいなら、まず社員を最強のファンにするというところから始める必要があるのです。

ここまで、ファンベースの基本アプローチである共感、愛着、信頼について話をして来ました。その先に発展形として、熱狂、無二、応援を目指すと良いと著者は主張します。

■熱狂される存在になる

  1. 大切にしている価値をより前面に出す。

  2. 身内として扱い、共に価値を上げていく。

大切にしている価値をより強く、効果的にアピールすることで共感を熱狂に昇華させる。ここでは、スティーブジョブズのThink differentのスピーチを例に説明がなされています。

また、経営者が自ら自身のSNSで考え方を積極的に発信していくことも推奨しています。

真のコアファンは、身内として扱うと良いと著者は主張します。

真のコアファンは、対等に扱われるほうが喜ぶ。彼らをもてなすのはいい。感謝を伝え、いい体験をしてもらおう。でもへりくだりすぎないこと。胸を張り、誇りを持ってコアファンとつきあおう。逆に言うと、特別扱いや接待を要求する人は、身内ではない。コアファンではない。というかファンでもない。クレーマーの類である。

身内化の成功事例として本書ではネスカフェアンバサダープログラムとAKB商法が紹介されています。

■無二の存在になる

  1. 忘れられない体験や感動を作る。

  2. コアファンと共創する。

期待を大幅に上回る感動体験の事例として広島東洋カープのファンイベントの事例が紹介されています。

  • 球団が5百万円の予算を用意し、関東在住のカープ女子148名を往復チケットを提供して球場に招待。

  • 新幹線車内で赤を基調にした特製お弁当を提供。元カープの人気選手が駅員に扮して乗車券拝見。

  • 球場では飲食の提供。資生堂コラボのメイクアップ講座。人気選手がサプライズ登場し記念撮影。

これらを関東在住のファンに対する球団からのお礼として実施。観戦チケットはファンに購入頂いています。試合は観たいけれど、広島には頻繁に行けないというファンに対して感動体験を提供しました。

別の事例として、よなよなエールを展開しているヤッホーブルーイングが実施している超宴が紹介されています。ファンをチームの一員として迎え入れる。友人としてファンと一緒に楽しむがコンセプト。それが、結果的にファンにとっては唯一無二の体験となります。

コアファンと共創する。これは比較的人気の企画ですが、間違って実施されている事例が多いと著者は指摘します。それは、参加者をコアファンに絞っていないということ。

コアファンは企業が大切にしている価値をよくわかっているので、それに沿って身内として協力してくれる。一般ユーザーは、自分の趣味とセンスを元にした思いつきのアイデアを言うだけだ。

成功事例として、たった5人の熱狂的ファンと共創したマツダのアテンザの事例、1年間かけてコアファンと一緒に新商品を開発していくカルビーの「じゃがり校」の事例が紹介されています。

■応援される存在になる

  1. 人間をもっと見せる。等身大の発信を増やす。

  2. ソーシャルグッドを追求する。ファンの役に立つ。

人が応援するのはモノでもコトでもなくヒトである。従って、社員を黒子にするのではなく、こういう人々が働いているという等身大の発信を増やしていくべき

アップルの熱烈なファンである著者が、「悪の帝国」というネガなイメージを持っていたマイクロソフトに対し、とある社員がビデオカメラで社内を映し、そこで働いている等身大の人々を紹介しているブログを見て、同社に対する印象が良くなったという話が紹介されています。

また、アイドル評論家である中森明夫氏の「アイドルの条件とは、単なる美人ではなく、応援したくなるかどうか」という発言も紹介されています。

ソーシャルグッドについては、いまや、応援される企業、もっと言えば生き残る企業としての必須条件とすら言えるのではないでしょうか。企業市民である企業が、社会にとって良いことをするのは当たり前。

ファンにとっても、自分が共感し、推している企業を安心して、堂々と応援できる理由となります。

本書の最後では、従来の短期、単発型の施策と、中長期型のファンベース施策をどのように組み合わせて実施していけば良いかという具体的な着眼点が示されています。


いいなと思ったら応援しよう!

マルセロ| 事業プロデューサー
いつもお読み頂きありがとうございます。サポート励みになります。皆さまとの交流をどんどん広げていければと思います。