人の記憶の中を記録する。~南国の5軒編~
予定より遅れた飛行機と、最後まで出てこなかった鞄を空港で受け取りポップは街に出た。
「君の記憶を辿るけど本当に良いんだな」
僕は、冷えたジョッキを片手に念のためもう一度だけ聞いた。
「コニシ。この旅の終わりは、君に話すことだ。このままだといつまでたっても俺は働けない。働けないままおじいさん。私はそう思っているよ」
要するにポップは、誰かに聞いて欲しいことがある。それを言っていると僕は理解した。
「オーケー。まず君はどこへ行ったんだい」
僕は長くなりそうだと思ったが、この話に付き合うことにした。
彼は、ゆっくりと僕に写真を見せた。まず彼はホテルに着いた。チェックインしてから街に出ることにした。街全体が彼を呼んでいると思った。これに逆らうことが出来る人間がいるのなら会ってみたいと感じたと証言している。
彼は酔っぱらってしまう前に、名物の石垣牛をまずは食べておきたいと思った。彼は美味しいものが好きだった。
彼は石垣牛のハンバーガーを食したと証言している。
彼は、なぜステーキではなくハンバーガーにこだわったのかを話した。ここで満腹になってしまうことを避けるためだと証言している。
それは夜に備えてとのことだった。彼は知人が紹介してくれたお店に夜は行くつもりだった。そこには、キレイな女性がいることを知っていた。
バーガーショップを出ると、知人のお店が開店するまでにあと2時間あることに気付いた。彼は、2時間あれば映画が鑑賞出来るじゃないかと感じた。そして、もしこれが映画なら2時間で出会いから別れまでを作ることが出来るはずだと思い彼は行動した。ここは石垣島だぞと自分を鼓舞したと証言している。
彼はお店に呼ばれるのは得意だった。ふと目にした居酒屋に入るのは自然の流れだった。
隣の席に、若い2人組の女性がいた。彼は、ほどよく日に焼けた健康的な姿にこの2人組は観光客ではないなと感じた。
それは、一瞬で近付きたいと感じたと証言している。
それは、もちろんだと僕も思っている。
隣の席というのは偶然ではなく必然に狙ったと彼は証言している。42歳の男のひとり飲みは、若い女性達からすれば酒の肴にピッタリだった。女性達の話を隣で聞き、いちいちオーバーリアクションをしていると話し掛けられるのに10分かからなかったと彼は証言している。
「お兄さん。一杯貰っても良いですか」
初対面の女性達に夜のお店以外で、一杯プレゼントする最速記録を打ち立てたと彼は証言している。
「そのために石垣島に来たんだよ」
彼は一杯プレゼントしたと証言している。当然、この続きがあるだろうと思っていた彼は
次の店は彼女達についていこうと感じていた。
だけど、彼の計画は計画通りにいくことなどなかった。何の前触れもなく、その女性達はこう告げた。
「私達離島で働いてて、離島から来てるんです。あっちには何のお店もなくて。最終のフェリーもうすぐなので、お兄さんまたね。ごちそうさまでした」
可愛いくウィンクする女性達の「またね」という言葉を信じてマジで明日離島に行ってやろうかなと感じたと証言している。
行けば面白いのにと僕は思っている。
でも、2時間で出会いと別れを作れた。諦めなければ願いは叶うと感じたと証言している。
景気よく一杯プレゼントしたことを思いだし、彼はひとり旅に来た実感と騙されたワケではないと考える自分に挟まれたと証言している。
彼は、知人のお店に入店したと証言している。知人のお店にはキレイな女性がいて、その人に挨拶をしたかったが、常連であろうオヤジがその人を独占していてなかなか話せなかったと証言している。今日は負けかと感じていた。
勝ち負けじゃないけどなと僕は思っている。
その時、同じくらいの年齢の女性が入店してきた。その人は明日東京へ帰るという。東京へ帰る前にもう一度この店に寄りたかったとのことだった。
彼は、その女性と話した。キレイな女性を独占していた常連が割り込んできた。どうやらこのオヤジは、女性と話す彼をただ邪魔したいみたいだと感じたと証言している。
僕もやりかねないなと僕は思っている。
彼は知人のキレイな女性に挨拶を済ませ、店を出ることにした。会計を済ませ店を出たら、最終日の女性と女性に絡んでいるオヤジが出てきたという。オヤジは彼とその女性を見てこう言った。
「俺の知り合いの店行くぞ」
彼は、たしかに誘われたと証言している。次に行ったお店は、ミュージックバーで音量が大きすぎて、とても話せる環境ではなかったと証言している。唯一覚えている会話は、
「これ以上移住者が増えたら、水が足らなくなる。大きなホテルなどが出来たら本当に大変だ。今が一番絶妙なバランスなんだ」
と熱弁するオヤジの姿を覚えている。
彼はなぜか石を積み上げいつ倒れてもおかしくない絶妙なバランスの石タワーを思い浮かべたと証言している。
それは倒してみたいなと僕は思っている。
この店を出て、オヤジは帰ったという。オヤジはこの店を出る前に彼と女性にこう言った。
「あなたの分は払うけど、お前は着いてきただけだから自分で払え」
と言われて「もちろんです」と支払った記憶があると証言している。たしかに誘われたはずなんだと彼は証言している。
おっさんとおっさんの戦いすごいなと僕は思っている。
そして、彼は女性と2人になったと証言している。
女性は最終日、彼は初日。何が起きてもおかしくないなと思った。
男と女は、仕切り直しにもう一軒寄った。理由が必要な2人には必然な流れだった。彼は唐突に女性からこう言われる。
「5日間の休みで何も決めてなかったんです。最初に行った離島でなぜかダイビングの資格を取ることになってしまい、それを断れずに2泊もしちゃって筆記と実技受けて取得してそれでこっちに来たんです」
彼は東京からわざわざ休みを取得して、離島で取る予定もなかったダイビングの資格を取得する。女性のひとり旅ってのも謎だなと感じたと証言している。
「それと、どうしても行って欲しい場所があります。私、そこでなぜか分からないけど号泣してしまって。時間があるなら行ってください」
彼は、思わず受けたバトンでリレーを走ってる気分になったと証言している。
「君は、疲弊していたんだね」
とっておきの言葉をプレゼントしたが、キョトンとしていてあまり響かなかったと証言している。
女性のキョトンが一番可愛いけどなと僕は思っている。
そして、旅の初日は5軒で終わり彼は女性の名前も何の交換もせずにホテルに帰ったと証言している。
「そんなことあるのか?連れて帰らないなんて信じられない」
僕は思っていることを正直に彼に聞いた。
「コニシ。俺は旅の初日。彼女は最終日お互いに聞かなくて良いことがあるってのが旅だ」
なんのはなしですか
と僕は、彼に直接言ったと証言する。
旅の初日が終わり彼はレンタルバイクに跨がった。
それは、女性に言われたバトンを返す場所へ行くためにだった。
自分に何が書けるか、何を求めているか、探している途中ですが、サポートいただいたお気持ちは、忘れずに活かしたいと思っています。