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創作大賞感想 ユキミとペローとレオンさん

書いている本人が楽しそうに書いているのが、読み手に伝わる時がある。本人はどういう気持ちで投稿したのかは私には分からないし、それは分からなくても良いことだと思っている。でも今もきっとドキドキしていると思う。おそらく本人の中でも一方向に振り切る覚悟で書いた作品なのだろうと思った。

彼女の普段の文体は、テーマにそった考察、エッセイ、食、多種多様に文体を変化させる。どれもが面白く、手を抜いていそうに見えて核心をつくような独自の視線でユーモアを入れつつ、彼女だけが持つ文体に惹き付けられる人も多い。だけど私が一番根底に感じるのは、書くことへの自分への探求と、読ませたい、届けたいと貪欲に戦っている姿だ。それを彼女は隠していない。

だから、私は彼女の記事を読むことにしている。私だってずっと戦ってるからだ。自分の文体、自分の表現、何か面白いことが書けないかずっと考えている。だから、彼女が小説を書くなら感想を書こうと思った。

「白雪美香は彼氏ができない!」はコンプレックスを抱く女性、大福(通称ユキミ)と、コンプレックスを抱く男性の私が主軸となり、展開される物語である。コンプレックスを抱いてはいるものの、非常に自己肯定感が高い二人が、美男美女に恋をするというストーリーだ。

青ひげペローの婚活日記_筆者の気持ちを代弁編

これは、あとがきにあたる部分からの引用になるのだが、彼女が描いた登場人物「青ひげペロー」が書いている。つまり、登場人物が物語から独立して説明していても何の違和感もないキャラクターだからだ。よくこういうキャラクターに至ったものだと思った。彼女の内面にもしかしたらこういう考えを持っている人物がいるのかもしれない。それくらい独立していてイキイキしているからだ。

この「青ひげペロー」は、35歳男性。福岡在住。青ひげにコンプレックスを抱いている。しかしコンプレックスではありつつも、青ひげに誇りを持っているらしい。と本文で登場人物からその人となりを説明されている。ここまででは、よく分からないと思う。だがこれは青ひげペローの正体不明な特徴で『青ひげペローの婚活日記』として多数の読者を惹き付けながら独特の文体で記事を投稿し、青ひげペロー自身がnoteの世界にアカウントを持っているという設定なのだ。

青ひげペローは実在するかも知れないと思わせるほど、その記事の書き方が面白い。

この、青ひげペローのアカウントだけでも本当に実在していれば面白いのになと思うほど、文体と感性がぶっ飛んでいる。主役になれるくらいだ。事実、青ひげペロー本人は主役だと思ってnoteに記事を書いている。完全に「いそうでいない」ギリギリの線をついて遊んでいる。

この「いそうでいない」という人物は読み手を引き込む。コイツならやりそうだし許せる。という境界線を行ったり来たり出来るからだ。

主人公の白雪美香、通称ユキミちゃんもあるコンプレックスを抱いて生きている。「これはデブではなくて、もっちゃり!」とこの台詞一つでも可愛くみえる。そしてとことん前向きで憎めない性格に読み手は人物の映像を想像したくなる。イケメンに方言を褒められ、方言を多用してしまうところなど、そんな可愛い子どこにいるんだ。出会ったことないわ。と人生を振り返り嫉妬したくらい可愛いのである。

この作品は、とことん前を向いている、葛藤や悲しくなる場面を極力排除している。人物に厚みを持たせる上では、内面を描くのは重要な要素になる。読み手が物語に置いていかれないためにだ。その過去の出会いや思考の変遷を知って感情を登場人物に移入していくものだからだ。だけど、彼女は詳しく描写せずにそれを置くことを選択した。

明確に「リズムと楽しさ」現在起きていることのみに集中するようにしている。これは、映像を頭の中で浮かべやすいことに繋がっている気がする。

気付けば、ユキミの世界に入り込み、ユキミを想像し、ユキミの仲間と同じようにユキミを応援している。物語は一つのエピソードの中で、青ひげペローとユキミの交流を迎える。この交流の仕方がまた面白い。もしかしたら私達も現実にこういうことが起きているかもしれないというギリギリをついてくるからだ。だから、想像して笑えてしまう。青ひげペローのnoteを読んでいたユキミは、その青ひげを目撃した時から「もしかして本人?」と疑うのだ。

彼女がエンタメに振り切ったおかげで、恋愛における身体的なマイナス部分も明るく切り込める。コンプレックスをコンプレックスと思わせないようにしている文体のおかげでだ。そして、おそらく彼女が愛する福岡という土地を舞台に選んでいるということは、今後もっと美味しいものや、素敵な場所でもユキミのエピソードはあるということになる。今回のユキミは恋愛編と考えるとより面白くなる気が私はする。

彼女の普段のフードエッセイは別格で面白い。こういう要素を大好きな福岡を舞台にして、ユキミが食べながら語ったり、青ひげペローが胡散臭い記事にしたりと自由に遊べる要素がまだまだ感じられる。彼女個人の本来持っている面白さを入れ込めると思う。もしかして、この物語は、物語としてまだ始まっていないのではとも思う。

もちろん、今回の恋愛騒動は面白く魅力的であるし笑えたりも出来るのだが、私が一番感じたのは、もっと発展させられるキャラクターの気がしたということだ。完成された物語を読む楽しみもあるのだが、もちろん今回の作品も完成していると思うが、普段の彼女の文章を読んでいる私は、彼女が生んだキャラクターは、彼女のエッセンスをもっと入れ込んでさらに跳ねる気がしてならない。

ユキミや青ひげペローにふさわしい舞台や設定で福岡を巻き込んだり、何か大きな事件を解決したり、小さな感動を与えたり出来そうな余白を感じてしまう。何をしてもこの人達ならあり得るし許せるからだ。

この少しおかしなキャラクター達をこれからも大事に育てて欲しいと願っています。いずれ決して交わらない相棒みたいになっても面白いのかも知れません。

この先、この作品がどなたかの目に留まり、彼女と一緒になって創作してくれて考えを膨らませてくれるような出会いや、作品そのものを楽しく大きくしてくれる方々と出会い、より多くの人に届くように物語が発展することを願っております。



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