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創作大賞感想 豆島圭さんの世界に、言葉の持つ繋がりを知る。

最後にタイトルを読み直して、深く感じる物語に久しぶりに出会った。人間の成長途中の物語の余韻を自分で確かめて、もう少しこの豆島圭さんの世界にいたいなと感じた。

小学校教員を数年で辞めてしまった門馬希生は、現在、不登校児が通う市の適応指導教室『かけはし』に勤める。

 言の葉ノ架け橋あらすじより

主人公の希生先生と、悩みを持つ『かけはし』に通う生徒や、両親と交流して悩みを解決して人間として成長していく物語だ。こうやって文字にして、簡単な言葉にしてしまう自分が嫌になってしまう。この物語はそんなに簡単な話ではない。人間の感情の機微や心の行き違いがすごく丁寧に描かれている。それなのにコミカルな描写をして、読者を真剣な感情の一辺倒にしないように、置いていかないような優しさの上で綿密に練られて作られているように感じた。

主人公が悩みを解決する上で、物語にはそのパートナーや相棒が存在することが多い。そのパートナーとなるのが、普通に考えるなら、同僚や友人、家族になるのだろうと考えるが、豆島圭さんの世界は、老犬のパグ「ウメ子」とヨウムの「ヨウちゃん」だった。犬と鳥だ。こういう、少し奇想天外な発想を物語に入れ込む場合、途中からその物語そのものが破綻することが多い。私もそれを最初、少しだけ恐れていた。

そんな心配は杞憂に終わる。読み手をありのままに受け入れさせてくれるのが、豆島圭さんの丁寧に描き切る力量なのかなと感じた。とにかくすごい。まったく物語に違和感なく普通に完璧なタイミングで喋るヨウムの「ヨウちゃん」を待ち遠しくなってしまうのだ。あっという間にその世界を受け入れてしまう。

主人公の希生は、

子供たちの気持ちもロクに理解できなかった私が、犬の言葉を分かるわけないか。

と何かを背負って適応指導教室『かけはし』に勤めているのだが、物語の最後には誰よりも誰の言葉も知ろう、聞こうと成長している。

「誰かの後悔している一日を食べて、なかったことにしてくれる」

と、噂になっているパグの「ウメ子」に相談者が訪れるのだが、パグ「ウメ子」の描写がとにかくすごい。恐らくパグが身近にいるのだろうことは推測出来るが、そこには物語に登場する人間以上にしっかりと明確に存在している。パグ「ウメ子」が一番人間みたいに感じるくらいだ。愛おしくなる。

その描写の技術で「唸るだけのパグ『ウメ子』」が人間以上にそばにいる物語の生活を自然と受け入れられる。その現実感がすごいので、まったく不自然に感じないでいられる。飼いたくなってしまう。

豆島圭さんが描くこの物語の世界はすごくゆっくりだ。ゆっくり紐解くように、読み手を誘導してくれる。一緒に悩んでくれる。私は、途中まで読んでいて期間が空いていたのだが、もう一度最初から読み直した。正解だった。やっぱりこの世界は居心地が良い。

読書をする上でのストレスをほとんど感じない。一貫した空気感と丁寧に語る文体が読み手に悩みを与えずに、興味だけを一緒に連れていってくれて、この世界に長居をさせてくれる。これはすごい。

章が別れているので、どこから読んでも大丈夫だとも思います。設定を知って最初からがもちろん良いし、繋がりもあるのだが知らなくても味わえる。

これは、この物語が単独で独立しているからだ。ということは、どの章からでもお試しに発表したり何かの映像にしたりしやすい気がする。すごく扱いやすい素材なのではと思ってしまう。

この豆島圭さんが創作する不思議な空間を目で観たりもしてみたいと感じた。それはコミカルな設定なのに豆島圭さんが「人間」の心と「言葉」の魂を大事にしていて登場人物のセリフに吹き込んで丁寧に紡いでいるからだ。

物語をゆっくり、登場人物達と一緒に歩んで読み進めるとなぜこんなに丁寧に描いていたかが理解出来る。言葉が通じない筈の動物達とも言葉の架け橋で繋がっていたからだ。これがどういう順序で出来上がっていた話か分からないが、言葉を声に出して相手に伝えることの重要性を描くために、言葉が通じない動物達をパートナーに選んだ豆島圭さんの物語の設定を理解した時にタイトルを読み返して、良いもの読ませてもらったとすごいなと思えました。

このまま、作品として世の中に出て欲しいです。もっと面白くしてさらに突拍子のない出来事だろうと豆島圭さんなら描いてくれると思いますし、この希生先生とウメ子とヨウちゃんならこの先も大丈夫な気がします。

そして、パグを飼いたくなり、愛でたくなりましたことを再び報告させていただきます。

なんのはなしですか

自分に何が書けるか、何を求めているか、探している途中ですが、サポートいただいたお気持ちは、忘れずに活かしたいと思っています。