見出し画像

空前の漫画家不足

まさかこんな時代がくるとは新人の頃は思っていませんでした。

数年前から、ウェブ投稿小説の書籍化、それに追随するコミカライズが増えに増え、同時に電子書籍の台頭により新興レーベル、ウェブ雑誌でオリジナル漫画の枠も増え、さらにウェブトゥーンも盛り上がりを見せ、
「漫画描けたら必ず仕事はある」時代になりました。すごい。

すごいんですが、同時に、苦しんでいる人も増えた印象です。

昔、漫画家になる道が投稿と持ち込みによる新人賞受賞しかなかったころとは違い、編集者(ではないこともなぜか最近ままある)からSNSやメールで声をかけられて漫画家デビューする方もかなり多くなりました。

それ自体はとてもよいことだと思います。漫画家はなってからのほうが大変なので、デビューは早い方が良いです。体力もあるし。

ただ、今はあまりに作品が増えたのに編集者は増えていないので(一人前の編集者はそんなにすぐに育つものではありません)、1人が抱える漫画家や企画の数が多すぎて、きめこまやかに1人の作家に向き合うリソースが物理的にないことも多いのです。

さらに今は、電子媒体では、編集者でない人も漫画家に声をかけます。
編集者ではない人も漫画の企画を担当します。
編集者ではな(以下略

だからウェブで声をかけられて、おそらく今だとすぐに何かの漫画の仕事はできますが、編集者と信頼関係が築けずに悩んでいる新人さんもたくさんおいでのようです。

漫画家になりたい人は今も昔もたくさんいて、今はその間口が広がったと思います。

しかしながら、漫画の連載は、会社員との両立はほとんど不可能で、連載作家になると基本的には専業にならざるを得ません。

個人事業主で、誰にも守ってはもらえない立場で、売れても売れなくても体を壊しても心を壊しても誰も責任をとってはくれません。月産30ページ程度では収入も安定しません。

はじめての連載でなにもわからなくても、丁寧にフォローする余裕は、いまの編集者にはないことも多い。

だから、新人漫画家さん、またはその前後にいらっしゃるかたには、仕事を断る勇気ももってほしいな…と思います。

今、すぐに決まる連載は、信頼できる編集者と足並み揃えて作れそうですか。
打診メールには、あなただけの魅力に惚れ込んだことがわかる文面が書かれていますか。
その原稿料は、1枚10時間かかるとして、労働に見合う対価ですか。
コミカライズならば、提示された原作小説が好きですか。

実績がないし下手だから安くても仕方ない、と思うのであれば、仕事を受ける前に、実力をつけてから臨みましょう。大手雑誌の新人賞はまだまだあるので応募してみても良いと思います。自分の位置がわかります。30ページ程度を単発でいいので社員をしながらでも2ヶ月で形にできるはずです。

大手でデビュー相応の賞がとれるくらいであれば、格安で受ける必要はありません。交渉しましょう。
それでその件がもしも白紙になっても、すぐ次がみつかります。

空前の漫画家不足なのでっ!

それから、誠実ではないクライアント(編集者のこともあるし編集者ではないこともある…そんな時代……)も残念ながらいます。
素晴らしい編集者は確実に、大手にも中小にも電子にも新興レーベルにも必ずいるので、諦めないでほしいです。出会えるまで粘りましょう。

コロナ禍を経て、アシスタントも在宅が増えました。アシスタント先で先輩に、雑談レベルで気軽に相談できる機会も減りました。新人さんには厳しすぎる時代になりました。

漫画が描けるという技術は希少なものです。今はどこも足りていません。

オリジナルでも、原作つきでも、コミカライズでも、ウェブトゥーンでも、漫画家が納得のいく環境でお仕事できますように。

そして、どんなに次の仕事がくることに不安がないほど飽和していても、技術を磨くことを怠らずにいたいと自分は思っています。
この原稿が世に出る最後かもしれないと思いながら仕上げる原稿には、やはり魂が宿ると思うから。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?