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ゲイバーのママから「1人でもゲイが悪いことしたら、ゲイ全員が悪い集団だと思われるのよ」と言われた話。




 よくあたいは調子に乗っていると言われる。
 けれど、あたいは反論したい。

 作家デビューしたからとか、インフルエンサーみたいな立場だからとか、メディアに取り上げてもらったからとか、そういうありがたい状況に恵まれたことで調子に乗っているのではなく、あたいはすでにーー以前から調子に乗って毎日を生きている。エブリデイ毎日だ。

 ずっと前から自分のことは北半球一美しいと思っているし、誰かがあたいを嫌っていても、自身に嫌われる要因や行いがあったことに自省するだけで、あたいは自分を嫌わない。自分だけは自分のことを愛そうと努めて調子に乗っている。まず自分が自分を愛さないと、誰も愛してくれないと思っているからだ。

 そんなヤケクソポジティブを信念としているので、平生からあたいは調子にノリノリ祭りでわっしょいわっしょいしてるってわけ。調子に乗らないと死ぬ生き物なのだ。マグロかっての✋(笑)


 だけど、そういった信念を知らなければ、あたいはただ浅識にもかかわらず無思慮に人気にかまけている人間に見えるかもしれない。ここ数年SNSで仕事していると、時折「何も考えずに生きている放蕩者」だと受け取られたりすることもある。否定はしない。あたいはお酒が好きだし、飲み屋繋がりの友達と遊ぶことが多いので、たしかに毎日放蕩してる。

 まぁそういう生き様はともかく、実力としてはあたいは弱小作家なので著作もまだ売れていないし、Twitterの一部である程度の知名度はあるけれど、思われているほど人気は無い。ファンもアンチも無関心な観衆も、あたいみたいなフォロワー数の多いアカウントを買い被りすぎなのだ。

 もちろん一部の変態たちはあたいを慕ってくれているけどね。それもほんと一部だ。そう、あんたたちのコト。

 なのであぐらをかいているわけじゃないのだけれど、フォロワー数だけが一人歩きして「がっぽり儲けて調子に乗っている」と思われがちでもある。

 以前『インフルエンサーはフォロワー数×10円が収入の目安』という言説を目にした。フォロワー数50,000人なら月収50万円、フォロワー数58万人のあたいなら月に580万円稼ぎ倒している計算になる。

 あたいは実態を知っているので、んなわけがないと分かるけれど、インフルエンサービジネスは芸能界のギャラ事情と同様にブラックボックスなところもあるので、知る由もない人が多いのは理解している。だからそんな風な荒唐無稽な言説も鵜呑みされて、勝手に嫉妬の炎を燃やされたり、上級国民の烙印を押されて敵視されたりもしてきた。

 ちなみにあたいの先月の作家としての月収は17万円、著作の印税は初版3000部で30万円(それが年3冊程度)。Youtubeの広告収入やLINEスタンプの販売実績、企業案件(プロパガンダやステマじゃなくLGBTの方向けの就労支援や賃貸案内等・あとお酒の商品案件だけ)や対談・インタビューやイベント出演などの仕事も含めて、多い時でようやっと月収30万円前後になる。年収は500万円を超えない。手取りで言うと300万円台だ。

 うつ病で仕事を辞めずにサラリーマンしていた方が収入は多かったと何度もエッセイで書いてきた。今だって生活費が足りないから学校帰りに知人のやってるバーでバイトしてる。調子には乗ってるけど、財布事情においては芳しくない。もちろんそれでも今のあたいが恵まれた環境にあるのは分かる。ゲイ風俗で働いていた時よりも毎日メシがうめぇ〜。

 なので先入観だけで非難されるなら、その誤解を紐解く情報を明け透けにした上で「儲けてなくても、それでも自分はお前のこと嫌い!」って言われたいなと思った。

 嫌いなのが《お金持ち》じゃなくて《あたい》に変わった時ーー先入観や属性や集団じゃなくて、個人になった時こそ、あたいは相手がファンだろうがアンチだろうがようやく向き合えたと思うから。

◆ 

 
 そんなある日、お世話になってるゲイバーのママから「あんたの本、買ったわよ〜」と連絡が来た。最新作を5冊も買ってくれたらしい。3冊は従業員用、残り2冊は店での展示用と、ママの自宅用らしい。書いてて思ったけど買いすぎやろ。めっちゃあたいのこと好きやん。

 そのママは、あたいがゲイバーで店子していた時から何かと目をかけてくれていて、営業中はよくあたいが接客させてもらったし、お酒もたくさん飲ませていただいた。

 年齢は一回り違うけれど、彼とあたいの境遇や経歴が似通っていたのでシンパシーを感じてくれたのか、いつもお世話になっていた。高級中華の上海蟹を食べに連れてってもらったこともある。ちなみにあたいはエビカニアレルギーだ。まぁ手とか唇を真っ赤にしながら全然食うけど。だって美味しいもん……。怒らんといて……。


 せっかく著作を購入してもらってたので、あたいは彼の店に早めの時間に飲みに行った。他のお客さんがいないうちに書籍にサインさせてもらって、そして景気付けにシャンパンをポーンと開けに行こうと思ったからだ。去年のママのバースデーにも顔を出せていなかったので、ヴーヴだけでもスパッと開けて帰ろうと思った。

 その日の店にはあたいとママと、あとあたいがもちぎだと知ってくれている古株のチーママの三人だけだった。あたいが気楽にもちぎとしての話ができるように、ママが他の店子(あたいのことをもちぎだと知らない従業員)の出勤を遅らせてくれてるんだろうな、と計らいを感じた。

 そして三人でお酒をバッコリ決めながら飲んでいた時、ふとチーママが愚痴をこぼした。

「最近でもLGBTの権利がーとか、女性の権利がーとか、ジェンダー系のうるさい奴らいるじゃない、フェミニストとかLGBT系の左翼みたいなの。ああいうのアタシ嫌いだわ、マジうっさい」


 ーーチーママの彼は右翼や積極的な保守、というわけではなく、いわゆる大多数の“普通の人”という感じなのかもしれない。

 選挙の投票には行かず、あまり政治には明るくないけれど、なんか文句言ってる人間は気に食わない。批判的思考を涵養する機会に乏しい教育を受けてきたので、批判やクレームはすべて悪意に見える。そして社会やメディアから学びとった無自覚な愛国心(なんとなく日本は世界一だと思うしすごいから大好き)というものから、政治的な批判や指摘全てが“日本を貶す敵“に見えて、耳を傾けることすら憚られる。


 そういった消極的な保守というか、良しとされる歴史をひたむきに踏襲することを支持するーー現状維持を好む人だ。

 あたいはそれを強くは批判しない。できない。たとえば「この国で生き続けるのでより良い国になって欲しい」「この国に大切な人が住んでいるから守りたい」という感覚は右翼も左翼も原理にあるのだろうし、それを愛国心と呼ぶのならあたいも愛国心自体は良い感覚だと思う。もちろんそんなのもなくひたすらに自分1人の幸せを追及する思想も正しいけれど。

 ただ、愛国心という言葉や良心の笠に着て、為政者に批判を生まれさせないプロパガンダがあるのなら、それはなんだかなと思う。

 なにより、(チーママの彼を含む大多数の人間を十把一絡げにするのも雑語りになってしまうけど)日々の生活に手一杯な人間に、現状の感じ方を全否定するような批判や「もっと学べ。お前は何も真実に気付いていない。無知は罪」のような指摘をしたならば、それは偉そうで、上から目線で、傲慢な行いにもなってしまい、軋轢や対立を生む。

 ていうか全ての人間が毎日ガチれるほど、人は強くない。 

 あたい自身が貧乏で、未成年の頃からその日暮らしのゲイ風俗ボーイをしていたから、その時なんて政治みたいなものは食うに繋がらない無為なものに思えた。政治よりも日給だった。

 もちろんそういった困窮している人間に「あなたの生活はすべて〇〇のせいです」と誘導するようなことはできるけれど、それは程度によれば啓蒙ではなく扇動にもなる。そしてその線引きの絶対値は、あたいにも分からん。

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ここはあなたの宿であり、別荘であり、療養地。 あたいが毎月4本以上の文章を温泉のようにドバドバと湧かせて、かけながす。 内容はさまざまな思…

今ならあたいの投げキッス付きよ👄