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他人をSNSで炎上させる方法。



 ずいぶん前から、芸能人だけじゃなくなった。

 そこらへんの一般人でも、SNSである程度の影響力を持てるようになった。

 一般アカウントでも投稿が面白かったり、継続的に作り続けているコンテンツがウケればファンが生まれる。

 ファンも「無料で楽しむのは忍びねぇな」となれば金銭的な支援をすることもあるし、「これは有料化したほうがいいな」と本人が考えれば簡単にマネタイズ(収益化)できる。それに直接お金の授受をしなくても、広告収入などでも間接的にクリエイターを支援できるので、SNSを通してお金を一円でも得ることの難易度はかなり下がったと思う。

 また、企業と契約して出版したり、広報を担ったり、商品化したりすることも珍しくなった。誰でもSNSを活用して仕事ができる時代になったのかもしれないね。すごいやつでも、変なやつでも、誰であっても。

 そんなデジタルマーケティング時代になって、もうそこそこ長い時が経つ。

 ネットからコンテンツや体験談がメディア化する例なら15年以上、いやもっと前からあるし、電子媒体(電子書籍など)での商品化を含めるとその数も年々増えていると思う。作家という肩書きに限れば、昔みたいに文壇に認められたり、名誉ある賞を受賞するだけがデビューの関門じゃなくなったので、裾野がガバガバに広がったと思う。既存媒体での発表だけが作品の定義でも無くなり、自著に紙の書籍が無くても作家は成り立つ。

 他にも動画投稿で生計を立てる人が続々と現れたし、それで億万長者になるケースも出てきた。今やSNSの人気者はビッグドリーム的な眼差しを受けることもある。それに、むしろ芸能人が動画投稿型SNSに参入するくらいで、一時期は芸能界やオールドメディア(テレビや雑誌など)とSNSの地位が逆転するんじゃないかって囁かれていたくらいだった。


 ただし、だからこそ、一般人でも著名になれば私生活のゴシップや、プライベートに関することまで、全てにおいて《評価のまなざし》を受けることが当たり前の新時代になった。

 まぁ考えれば当たり前のことなんだけど、たとえばプロデビューしたスポーツ選手や、メジャーデビューしたアーティストやアイドルでも、有名になれば誰だって色々詮索されるし、プライベートの言動や個人情報でも好感度や評価が上下されてしまうってことは往々にしてある。InstagramやYoutubeやTikTokのようなSNSでも、そんな眼差しが、その媒体の有名人に適用されるようになったってことだ。

 ーーたとえば覆面で活動しているのなら素顔は? 顔は整っている?ブサイク? 本名や国籍は? セクシュアリティは?  SNSで稼いでるなら推定収入は? どこに住んでいて、誰と暮らしている? 本業は? 動画専業者なら前職は? 既婚? 子持ち? 子どもの顔や知能は? 本人や親族の病気・障害の有無は? 学歴や出身は? 過去に不祥事や後ろめたい経歴は? 地元の人間や友人からのぶっちゃけ話は?  現在までの付き合いや関係に不適切なものはないか? みんなはこいつのこと好きなのか嫌っているのか?

 そういったゴシップやスキャンダラスな情報は、どんな媒体のインフルエンサーでも、どんな活動をしている著名人でも、マジで誰であっても、検索され、詮索され、噂されるようになった。もはや一億総井戸端会議化ですわ。おもしれー社会よね。

 そして、白日の下に晒された内容によっては、イメージやブランド力が毀損され、契約打ち切りだったり、企業案件や依頼のキャンセルを引き起こし、活動自粛や引退(廃業)にまで至ることもある。

 これは芸能人が不祥事で自粛したり、不倫でCM契約を切られたり、アイドルが熱愛報道を受けて丸坊主にするのと同じで、SNSインフルエンサーや有名動画投稿者などでもイメージへの信用と信頼(つまり偶像)が、商売の源泉になっている証左でもあるのだろう。

 だから、イメージ的に悪いことをする=責任を取る必要がある=責任とは収入(フォロワーやファンからの貢献)を返上すること。つまり仕事を無くすこと。休業や引退。

 になるのだと思う。


 なんなら、SNSにおける人気商売や活動を生業にしていない本当の意味での一般人でもそういった対象になることがある。

 たとえば、身内ノリの延長線で炎上ネタ(飲食店内での迷惑行為など)や、不謹慎な発言、差別的思想をインターネット上に投稿した人間であったり、タレコミや晒し行為も厭わない暴露系インフルエンサーの標的になった人ならば、一般人であろうと多くの人から注目され、さまざまな情報を暴かれることがある。

 というか今時それも珍しくない

 中には一度の発言や投稿動画から世間の反感を買い、職場や学校が特定され退職や退学に至った人も、自宅の住所が晒されてしまい、引越しや夜逃げ・一家離散を余儀なくされた人もいる。

 もちろんこれには「対象者に非があるから構わない」という意見もあるけれど、もはや私刑に近いし、“問題のある社会的制裁“だとあたいは考えてますわ。

 その人が行った悪事の程度や場合によるかもしれないけれど、ただの粗忽な人間の失言や失態に対して、法的な処罰を受ける前に、市民が先んじて集って制裁を加える様子はやりすぎだろう。

 と思うのは、悪人に対して甘い考えなんだろうか。

 ていうかおバカは悪なんだろうか。
 その程度による?
 その程度を測るのは、誰なんだろう。

 ただ、暴露系Youtuberのような既得権益の忖度がない影響力は、内部告発やスラップ訴訟、閉鎖空間内でのいじめやハラスメントの被害者などの《力関係の弱い者への新しい救済方法》になっている節はあるのでは?と擁護されることもある。

 そんな「暴露は倫理的に良くはないけど一理や一利があるから」という事なかれな加担が、彼ら暴露系を“必要悪“として一定の権威を与え、のさばらせることになったのだと思う。

 たしかに、現時点では法で裁けない相手には、私的な制裁を加えなければ問題として取り沙汰されず、被害者が泣き寝入りしなければならないことが社会に多く存在する。法は完璧じゃないし、法の目も完全じゃない。

 それでも暴露は、攻撃の扇動という私刑の側面を持っているし、それを無思慮に支持しているのなら私刑を楽しんでいるという批判は免れない。

 結局「暴露は必要悪だからしゃーない」ってのは罪の意識を逸らすための詭弁だとあたいは思う。


 でも一つだけ、擁護するような物言いになるけれど書いておきたい。

 やっぱり誰もが「知りたい」だとか「楽しみたい」という気持ちを持っていて、その欲求からゴシップ的なニュースや話題に惹かれ、情報を探るのだろうし、炎上や不幸の観衆になることで高揚する性癖が多くの人にあることは認めるべきだとも思う。たぶんそれを否定すれば嘘になる。

 ほとんどの人間が、人の不幸に興味がある。良くも悪くも。
 
それはしゃーない。それが人の性(さが)だ。

 だからこそ「人の不幸や炎上で楽しんだって仕方ないじゃん、本能だもん」って思考停止して自己批判をしないよりは、最低でも《やりすぎのラインを考えられるくらいのブレーキ》と、他人の不幸に喜びを見出してしまっている自分に自覚的になるべきだと思う。


 そして、そんな人間の性癖というものを、あえて引き起こして利益を得る人がいる。

 まず一つが、インプレッションで稼げる人。

 そういった話題を煽情的に取り上げたり、あるいは依頼されたりして火種に注目を集め炎上させることで、金銭的な報酬を得る。あるいはフォロワーや支持者といったデジタル的な社会的地位を得られるがために、ゴシップを見せ物やネタとして取り扱う。人の不幸や落ち度でマネタイズできる環境を持っている人物だ。

 もう一つが、その対象に個人的な憎悪の感情を持っている人。

 この場合、金銭や社会的地位ってより、溜飲を下げたいという目的で相手のゴシップの公開や拡散に至る。


 どちらにしても、とにかく対象の「炎上」を狙ってゴシップを投稿するのだけれど、そのためには炎上に値するような強力な火種が必要になる。

 ただ「こいつのこと嫌いな人〜?」というような呼びかけをするだけだとアンチですらない。自分の意見に自信が欲しいだけの臆病者、あるいは暇人だと思われるだけで全くの意味がない。ゴシップ系の炎上には対象者のある程度の落ち度や負い目が必要になる。

 たとえば「女性作家だと偽っていたが正体は中年男性だった」というような素性や経歴の詐称だとか、ステマや不祥事の事実、私生活の素行不良などは炎上のタネになりうるだろう。炎上にはこういったイメージの悪化につながる材料と裏付けが必要で、もしこれが揃っていない場合、信憑性のない憶測や悪口といった個人的な書き込みしかできない。その場合、炎上は期待できない。


 それでももし、炎上を招くために、たとえば「あいつには犯罪歴がある!」などと確証が無いまま風説の流布を断行し、情報を偽って炎上を招こうとすれば堂々と反撃を喰らうだろう。こういった投稿者が名誉毀損や誹謗中傷で訴えられるケースも珍しくなくなったし、「変な人に絡まれて大変だね」って論調が強まり、相手へ同情を集めるに終わる。火種が無いと放火魔ですらない、ただの愚かな行為をして自分自身で火傷した人だ。

 だけどゴシップが実際にあった場合、有名人に落ち度や付け入る隙があった場合は異なる。プライバシー侵害が甚だしいネットの暴露と密告は、まごうことなき悪なんだろうけれど、暴露された相手がさらに悪なら、相対的に暴露や密告は正義扱いの善となる。だから放火魔はエンターテイナーとしてもてはやされ、英雄視され、支持される。

 あくまで炎上には《妥当な火種》と、それと同時に、相手が言い逃れができない証明(裏付け)と、謝罪や活動自粛などの落とし所が必要なほどの追い込める破壊力が必須となるわけですわ。

 ただこういったゴシップによる炎上は、告発者や炎上受益者にとって受け身で“待ちの姿勢”だ。相手がそういった付け入るような隙を見せているか、有力な情報提供者などが現れない限り、嘘の風説しか書けないし、それには訴訟のリスクが孕んでいるから簡単には手出しができない。

 これと違って“攻めの姿勢”の炎上方法が一つある。


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