徳永潤二氏 "Monetizing Public Debt in Japan: An Empirical Critique of Modern Money Theory" を批判する
こんにちは、望月慎(望月夜)@motidukinoyoruと申します。
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(拙著『図解入門ビジネス 最新 MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本』(秀和システム)(2020/3/24 発売予定))
マサチューセッツ大学アマースト校の研究所:PERI:Political Economy Research Institute にて、徳永潤二氏(獨協大学経済学部教授)が、Monetizing Public Debt in Japan: An Empirical Critique of Modern Money Theory(直訳すると、「日本における公的債務のマネタイズ:MMTに対する実証的批判」)というMMT批判論文を書いていらっしゃいます。
大変残念なことに、当該論文はMMTに対する誤解や関連する事実誤認に基礎付けられており、MMTの正確な理解にあたり、この論文を徹底批判しておくことが有意義と考えるため、以下に論じます。
①低コストでの公的借入は量的緩和によるものではないし、また量的緩和政策はMMTとは関係ない
まず、概要の冒頭からして、早くも怪しげな雲行きとなっています。
この一節だけで、徳永氏の認識に数多くの問題があることが分かります。
まず、日本はMMTの「成功」ケースではありません。というのは、拙note「長期停滞・低金利下の財政金融政策:MMTは経済理論を救うか?」をレビュー① 齊藤誠論文編で論じたように、「MMTのモデルケース」は現代日本ではなく、全ての時代の全ての国であるからです。
現代日本のような、莫大な政府債務を抱えながら財政危機を起こさない国が、MMTの正しさ(というより、主流派経済学の誤り)を示す好例である、ということがあくまで言えるというだけで、日本政府が取っている政策がMMTの推奨するものであるなどという意味では全くありません。
また、中央銀行による量的緩和が、MMTの推奨するものであるかのような文言も、端的にいって論外です。
というのは、MMTはそうした量的緩和を、無意味、ないし場合によっては有害(緊縮的)であると批判してきたからです。(このことについては、拙note:『ニューケインジアンの金融政策無効論、MMTの金融政策無効論』にて詳説しています)
また、『量的緩和によって安く公的借入出来ている』という徳永氏の認識も事実とは異なります。
というのは、日本の国債金利は、量的緩和以前から、一貫して低水準であるからです。
(引用元)
この点をより詳細に検討するには、まず短期国債金利と長期国債金利を区別して分析する必要があります。
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