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「 自分以外の世界とつながる 」ための最初の入口

前回にひきつづき、 ConoCoの保育手法、aibase保育の詳細を説明します。
aibase保育は保育をする上で大切にしたい6つのコンセプト「 accept 」「 individualize 」「 believe & wait 」
「 attachment 」「 socialize 」「 environment 」の頭文字を繋げた造語です。
今回は5番目の「 socialize 」をご紹介します。
 

「 socialize 」は「 自分以外の世界とつながる 」

草原をかける子ども


「 socialize 」とは日本語でいう「 社会化 」、つまり「 社会の一員となる 」といったような意味をもつ言葉です。
わたしたち人間は、多かれ少なかれなんらかの「 社会 」という枠組みのなかで生きています。そして「 社会 」とは、自分ではない他者の集合体にほかなりません。

しかしこの「 社会 」というもの、ある日突然「 今日から社会の一員になります 」と宣言してそこに属するようなものでもありません。
少しずつかかわりを作りながら、そこにあるルールや概念を身につけていくことで、いつのまにか溶け込んでいる…そんなものではないでしょうか。

ConoCoの「 socialize 」は、人が社会の一員となっていくその過程一つひとつに着目し、そこにていねいにかかわっていく手法です。


社会でうまくやっていくために必要な力


「 人はひとりでは生きていけない 」とはよく耳にする言葉ですが、実際わたしたちが生活していく上でこの社会、ひいては他者とのかかわりは欠かせないものです。

たとえば今日、わたしは町内のオーガニック素材でつくるベーグル屋さんでベーグルを買うことでお昼ごはんを食べることができ、役所に書類を提出に行った際に「 この書類とあの書類が足りませんよ 」と担当の方に教えていただくことによって手続きのミスを防げました。
役所に行く途中にある川からの風が冷たくて同行の方と天気の話をしたり、
仕事から家に帰ると留守番をしていた猫がおなかをすかせていたのでごはんを用意したりと、そんな1日を過ごしました。

そのあらゆるシーンでわたしとわたし以外の存在を繋いでいるのは、コミュニケーションです。

わたしたちは他者と共存していく上で、必ずコミュニケーションをとる必要があります。その上で自分も他者も気持ちよくすごすためには、相手の気持ちもしっかり汲みとりながら、自分の気持ちを上手に伝えていくことが必要となってきます。
思いやったり、譲歩したり、我慢したり、礼儀にのっとったり…。
コミュニケーションの裏側にはこうした複雑な感情のコントロールやルールの把握が存在します。

つまり私たちが社会でうまくやっていくためには、コミュニケーションを上手にとる力やルールを理解しまもる力が要求されるのです。


信頼できる存在が媒介となる

親子でハート


ではいったいわたしたちは、どのようにしてこの自分以外の存在とのかかわりやコミュニケーションの仕方をまなんできたでしょうか。
最初からなんの摩擦もなく、他者とうまく交流できていたでしょうか。

皆さんも小さいころのことを思いだしてみてください。
知らない子どもたちとどうやって話したらいいかわからなくて、もじもじしたことはありませんか?
自分がおもちゃであそんでいたのに、ちがう子がやってきてそのおもちゃをとろうとして、いやだけどどうしたらいいかわからず泣きだしたことは?
はじめて見る動物にどう接したらいいかわからず、かたまって様子をうかがったことは?

そういった最初の一歩を、わたしたちはどのようにして歩みだすのでしょうか。

まだこの世界への見通しが十分にできていない幼い子どもたちは、いざとなったら絶対に自分のことを守ってくれると信頼できる大人の存在を安全基地としてはじめて、新しいものへと向かっていくことができるという「 愛着 」の話は、前回の「 attachment 」の回で説明しました。

幼い子どもは、信頼できる存在をよすがに未知のものにかかわってみようとしたり、信頼できる存在がかかわっている対象にみずからも興味や関心を抱いたり、心をひらいたりしていくのです。

ちなみにその対象は、人だけではありません。
動物だったり、植物だったり、物であったり、コミュニティなどのすこし大きなまとまりだったりとさまざまです。

わたしたちの他者とのかかわりの最初の一歩は、こうして愛着関係をむすんだ信頼できる存在が後押ししてくれるものなのです。

このように、子どもが保育者と信頼関係を築き、その保育者を媒介として自分以外の世界とかかわっていけるように導くことを、ConoCoでは「 socialize 」のもっとも重要な姿勢として大切にしています。


言葉にしてもらうことで、自分を知り、他者を知る


すこし具体的に見ていきましょう。

先ほど述べた通り、わたしたちは他者とのつながりを言葉、コミュニケーションによって作っていきます。
でも、乳児のうちはまだまだ自分の思いをうまく言葉にすることができません。

そこで、保育者が子どもの思いをていねいにすくいとって、言葉にしてあげるのです。
風が冷たそうにしていたら「 風が冷たいね。」
花が咲いてきれいだったら「 お花が咲いていてきれいだね。」
おなかがすいて泣いていたら「 おなかすいたね、もうすこしでごはんだよ。」
オムツが汚れて泣いていたら「 気持ち悪かったね、きれいにしてすっきりしようね。」
おもちゃを取られて泣いていたら「 おもちゃ使ってたのに取られて悲しいね。あの子も使いたかったんだね。返してもらうように話してみよう。」

こうして代わりに言葉にしてもらうことで、子どもたちはすこしずつ自分の感情を理解し、その表現を知り、表現することを覚えます。
そして自分以外の存在も自分とおなじように揺れ動く気持ちをもっていることを知っていくのです。

自分と相手のおなじところ、また自分とはちがうところを知ることは、さらなる自分自身の発見にもつながります。
他者の存在を知ることが、さらに自己に対する理解を深め、それがまた他者への理解を深める。他者とかかわることで、自己も他者もより明確にこの世界に存在するようになるのです。

どこかの哲学者が「 自己もまた、このような他者もしくは世界なしには決して存在せず、これからの抵抗を受けながら存在する 」というようなことを言っていましたが、この年頃の子どもたちが自己や他者を発見してその世界を広げたり深めたりしていくさまは、まさに人間の相互作用の神秘を見ている気がします。


子どもたち同士で育ちあう

赤ちゃん抱っこする子ども


さらに、ConoCoではさまざまな年齢の子がおなじ空間で生活をしますが、そういった異年齢の関係性のなかでうまれる相互作用もあります。

保育者との信頼関係が十分にできると、子どもたちは保育者とだけでなく、子どもたち同士でかかわってあそんだりすることができ始めます。
そしてそのなかで、小さい子は自分より大きな子がいろんなことができるすがたに憧れ、それをお手本にしてどんどん成長していくのです。
対して大きい子は、保育者が小さい子のおせわをする様子を見ておなじようにおせわをしてあげたり、小さい子ができないことを手助けしてあげたりと、人を思いやる心が育っていくのです。

子ども同士が影響を与えあい、まなびあって伸びていくさまは、大人が上から子どもに教えるよりもずっと力強いものです。


社会性のはじまり


こうしてコミュニケーションの方法を知り、お互いにかかわりあうことができるようになると、人間社会で生きていく上で大切な「 ルールを知る 」ということもできるようになってきます。

保育園のなかでは、ほかの子どもやその保護者にあいさつしたり、あそびのなかでやりとりしたり、けんかをしたりと、濃密な他者とのかかわりがたくさんうまれます。
子どもたちはそのかかわりあいのなかで失敗したりうまくやったりしながら、その場や集団におけるルールがあること知り、たくさんの人がすごすなかではそのルールをまもることが必要なのだということもまなんでいくのです。

保育園というのは、子どもが家庭の次くらいに経験する大きさの社会ともいえるでしょう。
こうして子どもたちはすこしずつ、社会性を身につけはじめるのです。


子どもの「 socialize 」には、保育者の姿勢が問われる

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長々と書きましたが、このように子どもたちは信頼できる保育者の存在を媒介として、他者とのかかわりを開始します。
そこから言葉でのコミュニケーションやお互いを思いやる心、協調性、忍耐力、自然や生き物・コミュニティなどへの向き合い方をまなんでいきます。
そしてさらには、ルールを知り、ルールを守り、お互いに育ちあうことを身につけていくのです。

「 socialize 」とは、子どもたちの社会性の土台を築くことなのです。

子どもたちをこの社会へと案内する最初の入口となるのは保育者です。

だからこそ、保育者がいかに深くていねいに子どもたちの心をすくいとれるか、それを豊かな言葉にできるか、そして保育者自身がどれだけ誠実に自分以外の存在と向き合うことができているかが問われるのだと考えています。

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