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ロマンティックはゲームよ

カレー屋の主人の背中から風が漏れていたのでカウンターを超えておもいきり飛び込んだら、そこは魅惑のスペイン、アンダルシアの街だった。
真っ青な空と白い家のコントラスト。
フラメンコを踊る美少女。
圧巻のセリビア大聖堂。
おれはカレー屋の主人の背中を通して空間を超えた。
風に誘われて。
しかし、何かがおかしい。
変だ。耳が変だ。
ちょっと待て。
耳が無い。
どうしたことか。
こりゃどうも耳だけは東京に置いてきたらしい。
「何が何だか!」とカレー屋の主人が怒り叫んでいるのが聞こえる。
確かに俺はアンダルシアにいるのに聴覚だけが東京だ。
ブシュブシュと耳があった部分から血が噴き出してきてアンダルシアを汚した。
美少女が俺に近づいてきて何か叫んだけど全く聞こえない。
ちょっと待て、冷静に考えよう。
見えない東京はどんな状態なんだろうか。
東京の音が聞こえる。
サイレンが近づいてくる。
東京では俺の耳は浮いているのだろうか。
それともカレー屋の床にポテッと転がっているのだろうか。
東京の音がフェードアウトしてきた。
耳がアンダルシアにクリスタルな形で遅れてやってきた。
いいぞ。
耳から吹き出る血がピッピ、ピッピと緩やかになっていく。
ある一定の段階で耳がクリスタルなままボヤッと止まった。
この薄さだと半分くらいしか耳が来てない。
30分経った。
俺の耳は今もフィフティフィフティ。
地球をまたいで音が鳴る。
ちょっと待て、乳首もクリスタルじゃないか。
やめてくれ。

おわり

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