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EVの様々なコストを考える

著者:ケイヒロ、ハラオカヒサ

その日は確実にやってくる

2021年12月、トヨタが2030年までに30車種のEV(Electric Vehicle)を展開する方針を発表した。この背景として脱炭素化の流れがあり、バッテリー原料の調達に目処がたったことが戦略の裏付けになっている。

そしてあなたがEV好きかEV嫌いかまったく関係なく、化石燃料への依存度が下がり続けるのはまちがいない。こうなったとき内燃機関を動力にする自動車と電気をエネルギーとして使う自動車の比率は逆転しEVが主流になるだろう。このためには発電から道路だけではないインフラまでEVへの最適化を目指して整備されなくてはならないが、当記事ではEVを使う暮らしにまつわるコストを考えようと思う。

EVを使う暮らしにまつわるコストとは、自動車を買ったり維持するため最低限必要な金銭の負担だけでなく、EVを使ううえでやらなくてはならないこと、気にかけなくてならないもの、EVを所有していない人が負わされるものといった様々な負担を含むものとする。

考えるための前提は、トヨタがEV普及の目標としている2030年ではなく2022年1月現在の社会だ。現状のままEV時代を迎えることが可能なのか、可能でないなら何が必要なのか勘案したい。


EVを運転して思うこと

まず筆者2名が語るEVとは、自動車ユーザーとしての立場からみたEVであることはっきりさせておきたい。自動車について専門に報道する評論家の立場ではないし、自動車を所有していない人の感想でもない。

筆者のケイヒロ、ハラオカヒサともに普通免許と自動二輪の免許を持っている。そして日常的に自動車を運転し、自動車の便利さを享受するとともに所有する厄介さも痛感している。両名は過去にガソリン車(ケイヒロはディーゼルも)運転し、現在はハイブリッド車を運転しているごくあたりまえな自動車ユーザーといったところだ。

ところが2名ともEVを運転したことがない。

そこで今回の記事を執筆するためEVをディラーで銘々試乗することにした。また比較のため、所有している自動車以外も経験する必要があるだろうから、こちらもまた試乗した。EVは日産リーフ(1dayオーナー体験試と通常の試乗)、他はHV(Hybrid Vehicle)でトヨタC-HRとホンダフィット。EVのリーフを優先させるためHVの選択は期間内に試乗可能な車種となった。

この記事は新車の試乗レポートではないから、それぞれのモデルごと感じた違いをことさら伝えるつもりはない。ポイントは、EVはどこまで普通であるかだ。そのうえで感想は「いずれもよくできていた」ということになる。つまりEVもまた普通の自動車だということだ。表裏一体の関係から、最新のHVはさらによくできているとも感じる。

日産リーフの走り出しは、低回転から高トルクを発生するモーターの特性を生かし力不足を感じない。しかもスムースでジェントルだ。モーターによる加速や巡航時の感覚はなかなか面白い。細かいことを言えばきりがないが、走る、止まる、曲がるの3点でEVは何ら遜色ないだけでなく静粛性など明らかなメリットがあった。

ただし走る、止まる、曲がるならHVも大きな違いはない。昨今のHVはモーターのみで走行する範囲が広がり、トルクを必要とする走りだしや極低速だけでなく巡行域までカバーする。さらに高い速度に達すると内燃機関に切り替わる。モーターが不得意な場面を内燃機関でカバーするHVはさらによくできている。

この「EVは普通だ」という実感は大切なポイントだ。ごくあたりまえな自動車が電気のみで走り二酸化炭素をふくむ排ガスを排出しないところに意味がある。しかし「HVはさらによくできている」と感じてしまう点にEVの課題が集約されている。

それはこういうことだ。運転中に「もし、このクルマを所有しているとしたら」と仮定したとき、リーフ初心者の頭をよぎるのは「どこに充電スタンドがあるのだろう」といううっすらした不安だった。もちろん満充電で400kmくらい(実際には300km以上400km以下?)走行できるのを知ったうえで、筆者がEVに慣れていないゆえの感覚だ。ガソリン車、ディーゼル車、HVならガス欠を察知してガソリンスタンドを探すのはそう難しくないし給油は数分で終わる。EVの場合はそうはいかない。

充電スタンドがあっても空き枠があるかどうか心配だ。充電に必要な時間が長いのだから先客がいれば待ち時間もまた長く、充電器が空いても数十分も足止めを食らう。

急速充電(44kW)1回30分で可能なのは62kWhバッテリーで30%充電くらいという日産公式のレビューがある。30%分の急速充電で走行できる距離は100Kmくらいなので、まとまった距離を走行する際は次の充電を考えるとかなり忙しく煩わしい。なにしろ電欠になるまえに充電しなくてならないのだ。

このような感覚が生じるのは、古い考えをEVの作法へと更新できていなからだと言われそうだ。たしかにその通りで、休憩場所と休憩時間のやりくりで煩わしさが解消できるだろうと思う。だが私たちが求めているのは現在の自動車で得られる「普通」だ。こうした常識や感覚だけでなく、EVの普通を「自然」に感じさせるための設備やインフラはまだ存在していない。その点で「HVはさらによくできている」ということになる。

HVの強みや便利さはエネルギー密度が格段と高く、インフラが整備済みのガソリンを燃料にしていることから生じている。

EVの弱みや不便さはバッテリーのエネルギー密度の低さにまずあり、十分と言えないインフラと充電時間の長さが拍車をかけている。

これはHVのみならずガソリン車やディーゼルエンジン車と比較しても、私たちが慣れ親しんでいる「移動」の「自然さ」が損なわれるため弱みになってしまっている。

(出典)トヨタ自動車/
資源エネルギー庁[エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは]より


移動の自由がなければ自動車ではない

先行している日産リーフやテスラだけでなく、トヨタなど国内メーカーでEVの生産にむけて動向が活発化している。テスラ以外の輸入車も、これからEVラッシュを迎えるだろう。

また2022年1月、国内自動車メーカー各社に軽規格のEVを開発・発売する計画があると報じられた。日産・三菱自動車は2022年度初めに航続距離170km前後、実質負担200万円程度で発売予定だという。

こうしたEVが片道数キロのチョイ乗りだけでなく、片道100kmから数百kmにおよぶ移動に使われるのは何ら不思議なことではない。

・航続距離についての負担

そこでEVの普通車と今後発売されるというEVの軽自動車で東名高速を東京ICから名古屋方面へ走行した場合を考えてみたいと思う。

このとき東京ICで満充電状態と仮定するのは実情とかけ離れているため、EVの普通車の航続距離は300kmとした。いっぽう軽EVは未だ実情がわからないので報道発表通りの航続距離170kmで考える。そのうえで、それぞれの航続距離から2割減、3割減の距離がどのようなものか確認したいと思う。

3割減とはSOH(State of Health)=劣化後の満充電量70%を意味し、EV車のバッテリー容量保証の基準となる値だ。つまり実用に差し障りが生じると考えられる劣化具合だ。軽EVの例では、新品時と劣化後の航続距離の比較にもなる。

以下の地図の充電スタンド記号は、東名下りで急速充電できる場所だ。またGS記号はガソリンスタンドがあることを意味し、海老名までは起点からの距離、海老名以降はスタンド間の距離を表している。


この図から、EVの普通自動車が公称航続距離400km超とするものが多く、実際の使用でも高速道路を300km走行できれば問題ないとする理由がわかるだろう。バッテリーの残量が減っても地図に示した通りSAなどに急速充電スタンドがある。劣化度が少ない60kWh以上のバッテリーなら満充電から即高速道路に入って東京・名古屋間を無充電で走りきるのも可能だ。

では軽EVはどうだろうか。航続距離170kmだったとしても高速道路を走り続ける用途に使えないわけではないが、電欠が気になり常に充電できる場所を考えながら走行することになりそうだ。理想上の航続距離が170kmなので、実際の走行では箱根を越える前に電欠を心配することになるかもしれない。

軽自動車は日常のこまごました移動に使われるものと限定すれば巡行距離170kmもあれば十分かもしれない。しかし、高速道路だけでなく都市間バイパスを走行すればわかるように片道80km以上を移動する目的で軽自動車は使われている。

ガソリンエンジン軽自動車の満タン時航続可能距離は車種によって大きく異なるが500km〜800kmくらいだ。もちん実走行ではカタログ値通りの距離を巡航できないが、軽EVがガソリンエンジン軽自動車にとっての「普通」からいかにかけ離れたものであるかわかるだろう。

・充電についての負担

そんな軽EVだとしてもこまめに充電すればいいではないか、という考えだってある。

東名高速道路下りの場合、東京ICから富士川SAまではガソリンスタンドだけでなく急速充電スタンドが充実していると言ってよいだろう。しかし富士川SA以降は約60km間隔程度とまばらになる。

このため軽EVにとって富士川SA以降は厳しい区間になるかもしれない。また余裕がないまま急速充電の継ぎ足しで走行してきたEVにとっても気が気でない状態になるのではないか。

東名高速道路を例にしているが、他の高速道や自動車専用道路でもこの傾向は変わらない。しかもICを出ておしまいなのではなく、ICを出て目的地まで走行しなければならないのだ。

まだ発売されていない軽EVの話はここまでにして、試乗した日産リーフに話を戻そう。

試乗で東名高速道路を清水ICまで下り、再び清水ICから東京方面へ向かった。

東名上りを利用して首都高に入ったことがある人はわかると思うが、海老名あたりまでガソリンスタンドに困ることがなくても、首都高では給油できる場所がまったくなくなる。さらに首都高から他の自動車道に接続すると、給油できる場所がなかなか現れず絶望的な気分になりかねない。このため海老名あたりになると「このあたりで給油しましょう」と表示が現れる。

その点、平和島PA(上り)、用賀PA(上り)、代々木PA(上り)、志村PA(上り)、八潮PA(上り)、市川PA(西行き)、大黒PA、川口PA(上り)に充電スタンドがあるEVは恵まれているかもしれない。

日産のリーフには62kWhバッテリー搭載車と40kWhバッテリー搭載車がある。前者の公称航続距離は458km(WLTCモード)、後者は322km(WLTCモード)だ。80%までの公称急速充電時間は前者で60分、後者で40分だがバッテリー温度や気温で充電量はかなり変動する。前章で紹介した62kWhバッテリー搭載車の例では急速充電器を30分使用して約30%充電という結果だった。

このとき30%分充電するため急速充電器1台が30分間占有されていたことになる。東名高速道路では海老名SAには充電器が上下線それぞれ3基ずつ(40kw×2基、90kwを1基)、足柄SAには2基ずつ、他はすべて1基ずつだ。すでに充電器が埋まっている場合、いったい何十分待ったらよいかわからない。さらに繁忙期ともなればパーキングが混み合い充電器前に長蛇の列をつくるわけにはいかなくなる。

これは首都高上の充電スタンドも同様で、それでなくても狭いパーキングエリアが多いのだからさらに使い勝手が悪い。

もし現状の充電インフラのままEVが普及した場合、SAやPAの充電器が占有されていて使えないからと次の充電スタンドを使おうとしても、また混雑していて無理だったとなりかねない。数分で終わるガソリンや軽油の給油とあまりに条件が違うのだ。そして回転率が悪いのは市中の充電ステーションも同じである。

自宅で一昼夜かけて満充電にして出発する。旅先でも、宿泊先に入る直前か宿泊先のパーキングで満充電にして帰路につく。こうした心がけが求められる。だが理想通りの行動をできないのが世の常であり、理想通りに行動しても予想外のできごとに巻き込まれがちなのがドライブだ。心がけでどうにかなるものではないから、インフラの整備はまったなしになる。


充電スタンドにとっての負担

政府は充電スタンド不足を解消するため、2030年までに急速充電スタンドを約30,000軒にする目標を掲げている。ちなみに2019年のガソリンスタンド件数は29,637軒なので、ガソリンスタンドなみに充電可能な場所をつくることになる。

ところが充電スタンドの整備は遅々として進まない。

ガソリンスタンドで利潤が出るように充電スタンドでは利潤が出ないからだ。充電スタンドが施設を用意して、電力を買い、従業員を雇って営業する魅力がないのである。

まず充電料金から。急速充電器の使用料は従量制ではなく時間制だ。価格は日本充電サービス(e-Mobility Power)が1分あたり15円、日産のプレミアム40プランが10分あたり250円だ。これらを大雑把に50kWとして試算すると、1kWh単価は日本充電サービスが18円、日産が30円になる。

東京電力の場合、50kWの急速充電器を月200回稼働させる仮定で原価は42.4円/kWh、20kVAの充電器で34.1円と試算していて、こうなると前述の充電価格では赤字だ。なぜ赤字でも成り立っているかと言えば行政からの補助金や、自動車メーカーの先行投資があるからにほかならない。

これは事業として危ういだけでなく、EVを走らせている人々のエネルギー代をEVを所有していない人が負担しているのを意味する。EVの充電代はガソリンと比較して得であると言う人もいるが、それは他の人々の出費があって成り立っているのだ。

では充電のための電力を売るだけでスタンドが儲かるようにするには、充電価格をどれくらい値上げしたらよいのだろうか。ガソリンや軽油を売るスタンドとまったく同じ理屈を適用できるか疑問だが、ガソリンスタンドは1リットルあたり粗利15円が採算レベルで自動車1台あたり30L程度を売って450円ほど粗利があるとされている。だが急速充電は数分で終わる給油とちがって回転率が悪い。また初期投資を回収しなければならない。こうなると家庭用電気料金の2倍以上に設定しないと経営が立ち行かないという意見がある。

筆者が急速充電スタンドの経営は難しいのではないのかと考えるまでもなく、社団法人次世代自動車振興センターがEV普及の前提として「電気代のみで収益を得るビジネスモデルは成立困難」と明言している。これがSAやPAに急速充電器が十分に用意されず、街角のガソリンスタンドにも急速充電器増えない理由だ。

そして、あちこちでガソリンスタンドが廃業しているのをみなさんは目の当たりにしているはずだ。つまりガソリンスタンドを営業している人々が少しずつ急速充電スタンドへ業態を替えれば済む話ではなくなっているのである。

新規参入しても旨味がなく、電気代のみで収益を得るビジネスモデルが不可能なら、商業施設の駐車場に充電器を完備して、施設側で儲けを出せばよいのだろうか。そういう発想もあるが普及しないのは設備投資に対して現状ではまったくおいしい商売ではないからだ。今後、技術の進化によって10分充電が可能になったとき充電するだけで施設にはお金を落とさなくなるだろうと予測している経営者も多いはずだ。


発電あってのEVという負担

トヨタの社長でもある日本自動車工業会の豊田章男会長は、国内での年間の乗用車販売約400万台がすべてEVになり、保有台数(現状6200万台)のすべてがEVになると、電力ピーク時の発電能力は現状より10~15%増強する必要があると発言している。

しばしば「原子力発電所があと10基必要」と言われる根拠が上記の試算だ。これを火力発電所で考えると20基程度の増強が必要になる。

トヨタが2030年までに30車種のEV(Electric Vehicle)を展開すると宣言しているうえに、菅義偉首相時代に打ち出された2050年カーボンニュートラル方針もあり、脱炭素化の実現には「原子力発電所があと10基必要」になるということだ。再エネを限界まで増やしたとしてもまったく十分ではない。しかも太陽光は天気がよい日の午前10時頃から午後3時頃までしか能力を発揮できず、風力は適地が少ないうえに風まかせで、地熱はメンテナンスが難しいだけでなく早々と枯渇する。蓄電したくてもあまりに限界が低い。

現状では原子力を否定し続けるなら脱炭素化をあきらめるほかなく、とうぜんEVの普及も見切りをつけて内燃機関に戻るほかない。しかも量の安定だけでなく、安価な電力を実現しないかぎりEVの将来はないと言ってよいだろう。

まだ普及していないからEVを自在に走らせることができているが、発電と電力価格の問題を解決しないかぎり市中に台数が増えるごとEVは不自由さが際立つだろう。いまは「EVもまた普通の自動車」だが、そうではなくなるのだ。

この章の最後に関東で積雪があった2022年1月6日午後の電力使用状況を見てみようと思う。もしこの状況で多くの人がEVに充電したらどうなるだろうか。気温が低かろうとなんだろうと、電欠を避けるためEVは充電しなくてはならないのである。


何のためのEVなのか

EVの普及は脱炭素化のために進められている。しかし自動車である以上、自動車としての使い勝手が得られないなら存在する意味がない。自動車は出発地と目的地と経路を自由に選択でき、移動の途中で経路と目的地を変更するのが容易な乗り物だ。歩いて移動するままにとは言えないが、人間の速度や航続距離を飛躍的に拡張するのが自動車と言ってよいだろう。

ただし車輪がついていて人間の能力を拡張できればよいというものでもない。ガソリン車やディーゼル車の歴史があまり長く、これらが高度に発展したため、いまさらキュニョーの砲車や1899年に時速105.9km/hを記録した電気自動車ジャメ・コンタント号の使い勝手に戻るわけにはいかない。だからEVの使い勝手が現代の自動車より劣るわけにはいかず、その能力はガソリン車やディーゼル車、HVなみに設計され、あきらかに違いがあるのはバッテリーと充電にまつわる諸問題だった。

(上)キュニョーの砲車 (下)ジャメ・コンタント号


どこで、いかに、どれだけ時間をかけ、いくらで充電するか。家庭で充電できるのは便利だが、移動先で充電がままならないのは不便だし自動車の自由度を大きく損ねる。そのための充電スタンドが普及するには充電で儲けが出なくてはならないが、これがなかなか難しいのがわかった。さらに充電需要を賄えるだけの発電量がなけれぱならない。

バッテリーと充電にまつわる問題で、まだ触れていないものがある。それはEV車の寿命だ。EVのバッテリーの劣化は、エンジンの劣化と同じではないから自動車の買い替えサイクルが変わるのは間違いない。

EVに搭載されているバッテリーの保証は8年または160,000kmのうちどちらかが適用され、保証容量は70%だ。新品時と比べて満充電でどの程度の容量があるかを示す「SOH(State of Health)」で70%を割り込むと航続能力が十分と言えないものになり、8年または160,000km走行後にこここまで劣化しがちということになる。

バッテリーが劣化して新品と取り替えると、日産リーフの交換プログラムでは24kWhが71万5000円、40kWhが90万2000円(税込)となり、再生品を使用する場合は24kWhが42万3500円、30kWhが48万円(税込)となっている。再生品は劣化度を表す指標12セグメントのうち10セグメントが保証されているが、10セグメントがSOH83%程度を意味するとして得なのか否か考えなくてはならない。

こうなるとEVの中古車は、よほど年式が若く走行距離が少なくバッテリーの劣化が少ないものでないなら買うべきではないということになる。そして買い手にとって価値が低いなら、リセールバリューもまた低いことになる。内燃機関を動力にする自動車の買い方、買い替えのしかたが通用しなくなるのだ。


これまでは先進国で使われ役目を終えた自動車が途上国に売られて使用されてきたが、こうした自動車のライフサイクルも変わらずにはいられないだろう。前述のようにEVでは劣化したバッテリーは交換以外に能力を取り戻す術がなく、途上国で中古車を利用するうえで大きな障害になるはずだ。そして、これは途上国のモビリティへの影響だけでなく、生産段階で内燃機関を動力に使う自動車より多くのCO2を排出するとされるEVの正当性にも影響を与えかねない。

矛盾が一切ないものごとはあり得ないのだから、どこかで折り合いをつけなければならない。EVの普及もまた何を意味するものか多角的に考えてみなければならないのだ。「EVにはエンジンがなく二酸化炭素を排出しない」という話だけでは地球環境についても、社会についても、自動車ユーザー一人ひとりについても何も語っていないに等しいのである。

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