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首都圏から被曝不安層および自主避難者を生んだ情報災害の構造解明

加藤文宏(情報災害研究プロジェクト 代表)

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目次
・抄録
・ダウンロード
  予稿
  口頭発表スライド



首都圏から被曝不安層および自主避難者を生んだ情報災害の構造解明

抄録

 福島第一原子力発電所事故にともない、同発電所が立地する福島県大熊町から200キロメートル以上離れた首都圏で、被曝を怯えるだけでなく中部地方以西の地域に避難した人々がいた。これら自主避難母子と残された家族の精神面のケアを行い帰還を助ける過程で、自主避難者の不安感や危機感を刺激した情報が被災地に風評被害をもたらした情報と同じものであるのが観察された。自主避難が私的な感情にもとづく私的な経験にとどまらない、他の社会現象と関連した構造的な問題であったことから、悪しき風評によって自主避難が発生したメカニズムをあきらかにしながら、原子力発電所事故にともない発生した情報災害の全体像解明を本論の目的にした。

 メカニズムと全体像を解明するため、首都圏から自主避難した者たちの行動と証言に加え、数多くの被曝不安者が心情を吐露したネット掲示板(BBS)や交流サイト(SNS)の現存する発言ログを参照し、めまぐるしく変化した人々の心理を課題ごと地域ごと分析するため検索サイトGoogleの検索動向データを使用して、定性・定量両分析を試みた。

 原発事故にともなう情報災害の核心に存在する、不安感と危機感を抱えた層を定義しなおした結果、被曝への不安と危機感を煽る情報がほぼ東京都、埼玉県、神奈川県に偏在する極めて少数の「感じやすく動揺しやすい人々」によって消費、流通され、首都圏で負の感情と偏った信念が強化増幅されていたのが判明した。また「感じやすく動揺しやすい人々」が原発事故後に情報災害を発生させた起点ではなく、
1.マスメディアが実際よりも危機的な状況を「被曝と鼻血」などの「虚像」として描き出したことが起点になった。
2.「虚像」によって「感じやすく動揺しやすい人々」に不安感や危機感が広がった。
3.この感情を肯定して解決策として攻撃目標を示唆する反原発活動家や政治家が支持者を得た。
4.社会運動や政治の場で負の感情が社会に放出された。社会的な存在になった。
5.こうした状況をマスメディアが実際より過大な「虚像」として描き出した。
6.さまざまな「虚像」から、大多数の一般層も全国的で影響力を持つ風潮や風評があると誤認するに至る。
と連鎖する循環に諸問題の原因があった。

 見えない放射線を可視化して「危機」を具体的なものにする虚像報道と、報道を信じて不安感を増大させる人々と、不安を怒りに転化させ攻撃対象を示す活動家と政治家が生み出す循環構造の解体が問題の解決に不可欠である。福島県への風評加害を取り除くためだけでなく、今後発生する自然災害や事故で同様の情報災害が再現されないように対策を検討する必要がある。



── ダウンロード ──

予稿

口頭発表スライド


首都圏から被曝不安層および自主避難者を生んだ情報災害の構造解明

抄録
仮説
先行研究の検討
研究対象と分析方法
分析と考察
 1.不安を強く抱く層や自主避難者が首都圏から発生した背景
  A.大消費地としての首都圏
  B.デマ発生地かつ消費地としての首都圏
 2.首都圏の不安層に具体的な危機意識を与えた情報
  A.原発事故報道と首都圏
  B.鼻血を報じたマスメディアが与えた影響
  C.被曝と鼻血を結びつけて不安を抱いた層
  D.鼻血への興味の地域特性
 3.私的な感情が社会的な広がりを得た理由
 4.自主避難発生の理由
  A.ママ友コミュニティーにおける不安感の固定
  B.自主避難をめぐる相談と心情吐露の類型
  C.冷静さがありながら安全の事実を受け入れなかった人々
  D.不安層への怒りの出現(観察・発言・聞き取りから)
 5.情報災害の構造解明から解決へ
まとめと今後に向けて
[参考文献]


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