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神真都Qな父は娘を悪魔と罵った/終わりなき家族の修羅

[緊急掲載]神真都Q(ヤマトキュー)構成員はどのように変容して家族を苦しめたのか。家族の責任にしてよいのか。家族に救いはあるのか。

著者/ケイヒロ

記事の前に

神真都Qをやめたい場合はまずどうすべきか。次の記事で方法を具体的に説明している。

神真都Qに個人情報を握られていることを危惧するなら警察や弁護士への相談を勧めたい。もし個人情報を使った嫌がらせが発生したら迷わず110番通報を。そのときあなたが元神真都Qだったとしても、警察があなたを逮捕したり叱ったりはしない。


それに誰も気づいてはいなかった

2021年の夏。須藤かおるさん(仮名)は、いつもなら母の墓参りについて連絡をしてくる父から音沙汰がないのが心配になった。電話をかけてみると特に変わった様子はなかったが声のトーンだけがどことなくいつもと違った。「近いうちに、そっちへ行くよ」と会話を終えるまえに言ったのは習慣みたいなものだったが、電話を切ってからもぼんやりした心配が尾を引いた。

「家の様子は前に行ったときのままだし、ご飯も普通に食べているみたいで変わりがないのですが態度や喋りかたが浮ついていました。それで接種を後悔していると言ったので、『そんなことないんじゃんない』なんて適当に答えていたのです。お昼ご飯を私がつくっていっしょに食べていたら父がユーチューブと言い出して、『ヒカキン?』って答えたら、そんなのじゃないと真顔になったんです」

須藤さんの父が視聴していたのは、そのときは内容までわからなかったがQアノン系の陰謀論を語るチャンネルや、宇宙の真理を語るスピリチュアル系のチャンネルだった。

「なんだコレというのが第一印象でした。父の話が止まらなくなって言っていることがヤバいんですよ。変なものに興味を持ってお墓参りのことがどうでもよくなっているんだと気づきました」

父親の釣りに引っ張り出されることがあった夫に家に帰ってから聞いてみたが、1ヶ月前に会ったときはそんな様子がなかったという。兄に電話をかけて聞いても変化に気づいていなかった。

「兄に心配だからこまめに父と顔を合わせるようにしようと言ったのですが、呑気な感じで『心配ならそうしたほうがいいけど、ユーチューブを観るくらいどうってことないぞ』と。『変なエロサイトを見て、金払えとか脅されるくらいなら、そっちのほうが安全だ』と言うんです」

心配だからといって毎日会いに行けるほど須藤さんの住まいは実家に近くなかった。ぼやきながらも兄は協力してくれたが、1週間から2週間に1回ほど父親の様子を見に行くのが精一杯だった。

「『若い人にもすごい人がいる』とイチベイとかジョースターとかのことを言うようになって、そのときもう父はデモやイベントに参加していたのです。『このまえ会った人は若いのに会社を経営している』とか、そういう人に何かを教えてやったとか。うちの旦那と釣りに行くことなんてなくなってしまいました」

いままで須藤さんは父親の服選びを手伝ったり、スニーカーの替えどきを察して似合いそうなものを買ってやったりしていたが、こうしたものよりはるかに若やいだ服とスニーカーを父が自分で揃えていた。

「この頃はまだよかったです。秋頃になると、テスラ缶なんてインチキ商品に興味があると言ったり、本人は隠そうとしたけど陰謀論集団にかなり献金するようになって、ああもうダメだとなりました。信じすぎてはいけないと言う私と兄の注意では歯が立たなかったのです」

2022年1月。父親が関わっている集団が神真都Q(ヤマトキュー)と名乗っているのを知った。2月になってカルト性を加速させる神真都Qが怖くなり、須藤さんは兄と相談のうえ二人で父に脱会を説得することにした。

「食事をするテーブルで、父と兄と私がいつもの場所に座って、もうやめてほしい、みんなで旅行に行って気晴らししようと、できるかぎりの説得をしていたら『サタニスト(悪魔主義者)』と父が真っ赤な顔で私たちに言って、足で床をどんどん鳴らしたり立ち上がって甲高いとんでもない声をあげたりしました。冷蔵庫から缶ビールを出してきて一人で飲み始めて、『お酒はやめようよう』と私が言うと飲みかけのビールを缶ごとおもいきりぶつけてきたのです」

ここに至るまで約半年だった。「おまえらがこれないように鍵をかえる」と宣言したとおり、須藤さんの父親はドアの鍵をかえてしまった。


神真都Q構成員逮捕の衝撃

2022年4月7日。渋谷区のクリニックに「ワクチン接種をやめろ」と押しかけた神真都Qの構成員4名が逮捕された。この事件をネットニュースで知った須藤さんは、衝撃を受けて椅子から立ち上がれなくなってしまった。

「(筆者に)相談するようになって神真都Qが公安監視対象になっているらしいと聞いてましたから、いつかは何かあるとは覚悟してましたが、もうダメです耐えられません」

筆者とどうしても話をしたいと言う須藤さんの表情は、Web会議ツールの画面のなかで別人のように硬直していた。

須藤さんにも兄にも警察から連絡がないので父親は逮捕されていないようだ。しかし公表されている逮捕者の年齢が父親より若いとはいえ、それ以外は父親と同じ背景をもった人々のように須藤さんは感じた。

「千葉から渋谷まで出かける暇人。患者でないのに病院に行って大声をあげるなんて狂っています。迷惑がわからなくなっているのは、うちの父も同じです。いつかぜったいやらかします」

須藤さんが父親と神真都Qにいくら心を痛めても、実家の鍵は取り替えられ、電話すらつながらない。7日の夕刻に兄が実家に駆けつけたとき雨戸が締め切られていて中の様子を伺い知ることができなかった。

「あんな時間に雨戸は閉めません。どこかへ出掛けて家にいないのかもしれません。それとも逮捕されたのを知って、妄想している敵が攻めてくると思っているのでしょうか。とにかくよその人に迷惑をかけないようにさせたいのに」

須藤さんの夫もWeb会議ツールの会話に加わった。

「こんなときお義父さんのことをどうしたらよいかわかりません。警察に話をしても民事不介入でしょう」

須藤さんが話を継いで「こうなったら病気にでもなって救急搬送されて入院してくれたほうがどれだけ助かるか」と顔を伏せた。

救急搬送も入院も他人に迷惑がかかるのを須藤さんは知っている。これくらい手詰まりであり、神真都Qの構成員の家族は追い詰められているのだ。


神真都Q構成員家族の問題をどのように考えるべきか

須藤かおるさん(仮名)が取材に応じるのは神真都Qや陰謀論やカルトの問題で悩んでいる人の助けになればと考えているからだが、匿名化を条件にしているのは実名や居住地などを知られたときの影響を心配するためだ。

心配しているのは世間体だけではない。神真都Qによる実力行使が問題視されるなか、実名が知られたとき自分や家族の生活や仕事にどのような悪影響がおよぶか想定できない恐ろしさがある。

神真都Qの代表で教祖の位置付けにある倉岡宏行(岡崎礼/イチベイ)は東京ドーム接種会場で妨害活動をしたとき警官に阻止されたと動画で語り、この警官は「ピックされた」と言っている。ピックとは神真都Q独特の言い回しで「拉致して殺害する」ことを意味している。つまり警官は拉致され殺された(拉致して殺した)というのだ。

こうした発言は妄想や嘘であってもきわめて反社会的であり、妨害行為にとどまらない犯罪を行うのではないかと危惧される。このような反社会性や危険性に気づいている須藤さんが怯えるのは当然だろう。

世の中には、神真都Q構成員家族にも責任があるのではないか、もしかしたら同類なのではないかとする声がある。そのような家族が皆無ではないだろうが、今回紹介した須藤さん一家のケースはどこかに落ち度があっただろうか。

須藤さんは「私と兄がもっと父と会っていたら避けられたかもしれない」と言うが、それぞれの家庭と生活があり離れて暮らす親族として特に冷淡だったわけではない。また同居家族の例でも、本人は別として他の家族に責任を問うのは酷だろうというケースが多い。

神真都Qの教義を真に受ける人は、社会や時代から取り残され承認欲求が満たされない人や、かなり偏った精神性の人が多いのが取材によってわかっているが、そこまで須藤さんの父親は特殊な人ではなかった。須藤さんも常識人である。

須藤さんの父親は妻を亡くしてから一人暮らしが数年続き、退職者になってから社会から期待されるものが減り、人付き合いがかなり限られたものになっていたが、こうした境遇の人は珍しくないだろう。この程度の心の隙間に、本人の性格次第、状況次第で神真都Qが入り込んでしまう可能性があるのだ。

「父にとってきっかけはユーチューブですが、どうしてあんなものを信じてしまったのかわかりません。いまも、どこまで本気なのか、どこまで狂っているのかわからないのです」

神真都Qや他の陰謀論が家族の問題であったり、時代や世代と関係しているのは否定できない。しかし、これら家族や世代性を責めても状況はなにひとつ変わらないのだ。むしろ明日は我が身と思ったほうがよいかもしれない。


家族に救いはあるのか

須藤さんの夫が言うように、家族が陰謀論者だったとしても家庭内の問題に警察は民事不介入の立場を崩せない。親子の縁を切ると言っても、現在の法制度では縁を切るのは不可能だ。

もし被害を受けているのが18歳未満なら児童相談所に相談するのが問題解決の第一歩になる。児童相談所などの窓口へのリンクと相談方法、どのように親と距離を置いて日常を取り戻すか以下の記事で詳しく解説した。


だが大人同士の関係では公的な力に介入を求めるのは不可能と思ったほうがよい。

もし精神が病的に変容しているのではないか、痴呆ではないかと疑う場合は、前掲の記事に記載した保健所全国精神保健福祉センターへの相談を勧めたい。どちらも精神保健福祉士、臨床心理士・公認心理師、保健師、看護師といった専門家が対応してくれるだけでなく訪問相談が可能な場合もある。

こうした専門家のカウンセリングや診察を素直に受けてくれるとは思えず、拒否する人を無理やり診察することはできないが、家族として何ができるのか有益なアドバイスが得られるはずだ。

「自分が父をどうにかしなくてはならないと思い込んでいました。でもそれで手遅れにしてしまったかもしれないとやっと気づきました」と須藤さんは言った。

当記事は緊急更新したものだ。今後、神真都Qや陰謀論を信じてしまった当人だけでなく家族の対応について記事を執筆していくつもりだが、いま切実に悩んでいるなら次のマガジンに心の問題についての過去からの記事を集めてあるので一読してもらいたい。

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