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侵食するクロームと電脳世界の叛逆〜サイバーパンク2077プレイ雑感〜

PS2以降、ゲームからはぐれていた人間がPS4を購入して丸2年が経過した。世間はすでにPS5へと移行していく中で、止まっていたゲーマー人生を取り戻さんと毎日のようにゲームをやっているわけだが、2010年代のゲームは映画との境目がほぼ無いに等しい。「ムービーのままゲームがやりたい」少年期に抱いたあどけない夢が実現した興奮というものは凄まじく、刺激的かつクラクラするような魅力に酔いしれる日々が続いていたわけだが、その中でもとりわけハマったのは、2020年の最後を飾った大作RPG『サイバーパンク2077 』だ。

世間ではいわくつきのゲームである。少しググれば分かることだが、その評判は散々で、エラー落ちとバグまみれでまともにプレイできたものではない。ただ実際にプレイした感想としては、多少目をつぶれば何とかプレイ可能な範囲であり、言われるほど酷くはなかったというのが正直な感想である。

とはいえ、この未完成ぶりは安易に擁護はできず、一度しかない出会いと夢のようなプレイ体験を損なった罪は重いだろう。それに関しては有識者が語ってくれているのでここでは割愛する。参考までに、僕はPS4proでやったわけだが、クリアするまでにエラー落ちした回数は17〜18回ほどである。細かいバグを上げればキリがない。しかしながらどハマりしたのもまた事実で、プレイ時間はゆうに130時間を超えており、自身初のトロフィーコンプまで達成する程度には、このゲームに取り憑かれてしまったのだ。

サイバーパンク2077の魅力を一言で説明するなら、麻薬的な中毒性のある「没入感」のゲームである。特に舞台である「ナイトシティ」が醸し出す魔力は凄まじく、企業間戦争とギャング間抗争で揺れ動く危うい均衡で保たれた街であり、人の命は羽根のように軽い。人体を機械に換装した代わりに剥き出しになった欲望は、留まる所を知らず渦を巻いて街全体を呑み込んでいく。

サイバーパンク2077はジャンルこそSFではあるのだが、根底には意志を持って成り上がるアウトローの血が通っているのだ。多国籍の言語が飛び交い、極彩色のネオンで彩られた街を抜ければ、あとは果てのない荒野が広がっている。バイクのエンジンを唸らせ、ハイウェイを駆け抜けて荒野を爆走した時の解放感たるや筆舌に尽くしがたい。サイバーパンク2077はどこまでも「自由」な物語だ。

広いのは世界だけではない。その設定の量も非常に多く、サイボーグ専門医のリパードク、軍事会社ミリテク、記憶の追体験であるブレインダンス……。世界観の骨組みを支える多種多様な専門用語と、サイドジョブに付随するフレーバーテキストの量はとにかく凄まじい。この手のオープンワールドのゲームにはサイドクエストが付き物で、モノによってはお使い感が出て辟易するものだが、このゲームではそうした印象はほとんど受けなかった。それはひとえに前述の大量のフレーバーテキストのおかげであり、自身が感知しない部分にもしっかりと物語の血肉が通っているからだろう。

背景で流れているニュースがそのままサイドジョブになったり、サイドジョブをクリアしても、そこで終わらず何度か電話をかけてくるキャラクターがいる。サイドジョブは時に悠長で、切迫したメインとの食い合わせが悪く感じる部分もあるにはあるのだが、世界を根底から覆すメインストーリーとはまた別の、Vの「傭兵」としてのナイトシティ生活はサイドジョブにこそあり、こちらが本編と言っても過言ではない。

サイバーパンク2077は一人称視点のゲームである。自キャラが映らないなら、キャラメイクやコスチュームにこだわる意味がないという意見もあるが、メインメニューの装備画面を開けば何度も目に入るため、むしろ逆にしっかりとこだわったほうがいい。帽子によって髪型の印象も変わり、服の種類も非常に多いため、こだわればこだわるほど自分だけの「V」となり、没入感はどんどん増していく。僕はキャラメイクにアホほど時間をかけるタイプなので、サイバーパンク2077を買った初日はほぼキャラメイクだけで一日消費してしまった。徐倫のような髪型があったのでそれをベースに、最初のキャラクターは女Vにし、ライフパス(出自)は企業側であるコーポレートでスタートした。体制側で始まるSFが好きなのだ。

清水理沙演じる女Vの声はクールで、コーポレートだと社内政治を生き抜いてきた人間特有のスレた感じがたまらない。白眉なのは、ライフパスによる第一印象の変化で、同じ声でもストリートキッドだとこのクールな声が人に簡単に心を開かない冷え切った野良犬のような遠吠えに聞こえ、ノーマッドだと孤独ながらも凛とした意志の強さを捨てないキャラクターに感じるような声になっている。これには舌を巻いてしまった。単にオープニングが変わるだけではなく、最初に選んだ性別やライフパスによってVという主人公へのプレイヤーの印象が変わるのだ。Vというキャラクターには個性を感じつつも、プレイヤーのロールプレイを阻害しない塩梅の演技になっているのが素晴らしい。

主人公以外のキャラクターも魅力的な本作なのだが、やはりジョニー・シルヴァーハンド抜きにしてサイバーパンク2077は語れない。粗にして野だが卑ではない、男のロマンを体現したようなキャラクターである。演じているキアヌ・リーブスは演技派というよりは雰囲気に特化したタイプの俳優であり、生と死の匂いを撒き散らしていて、本来同居しないはずの空気を常に身に纏っている。それは本作も同様で、ジョニー・シルヴァーハンドは強固な生存本能と強い意志を持っていながらも、その実態は電脳空間に漂う旧世代のゴーストに過ぎない。世界を破壊した最低最悪のテロリスト。死してなお生き続けるロックのカリスマ。ジョニーの精神はまさにハードボイルドのそれであり、サイバーパンクと古典的ハードボイルドの相性の良さは推して知るべしで、非人間に近づく過程で、そうした人間臭さの部分が何よりも燦然と輝くのだろう。

サイバーパンク2077、トロコンの関係で2周やったが、自分にとっては紛れもない神ゲーだった。バグの関係で人には中々薦められないが、記事をあらかた書き終え目を閉じた今でも、浮遊感が身体を支配し、ナイトシティの喧騒や暴力が脳裏を過ぎってゆく。自己投影をはるかに超えた自己感覚のフルダイブ。これ以上の没入感のあるゲームを現時点で僕はまだ知らない。最高のゲームをありがとう、チューマ。

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