大学病院のウラは墓場/久坂部羊

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読了日2019/11/13

先日、生理痛の痛み止めをもらうために地元の総合病院に行った。
総合病院とはいっても緊急外来はないし、
夜間受け入れはないし、
麻酔科もないので手術はしないし、
産科もないので分娩もできない。
どのへんが総合病院だよと地元民としてはなはだしい疑問だったし、
なんなら数年前に町内で移転して新築した際には、
手術も夜間受け入れ体制も整えると広報にあったのだ。

それがこのていたらく。
何をしたいんだ。

それもよく冷静に考えたら大問題だった。

とにかく私は痛み止めをもらいに、
週に一度の午後にしか開かない婦人科に出向いたのだ。
しかもその婦人科医は、
隣市の大きな病院から派遣されてくる。
しかも婦人科部長。
お世話様です。
近いうち行かなければならないのだけど、
痛み止めをピルに変えるかどうか悩んでるので遠い……。
本当はピルにしたいのだけど、
経済的な事情から痛み止めをもらうので精一杯な現状なのだ。

まあそれもいいとして、だ。

診察中に私は婦人科医と話したのだが、
過去に隣市の病院の産婦人科にかかったことがあると言った(婦人科医の病院とは別)。
生理痛がひどかったので念のため検査を行い、
異常はなかったので痛み止めをもらっていた。
途中から薬だけならと地元の病院に変えたので、
しばらく行ってなかったのだ。

すると婦人科医は言った。
「ああ、あそこの産婦人科なくなったよ」

私は驚きのあまり声が裏返った。
「えっ? なくなったんですか?」
「うん。なくなったよ」

衝撃。
だってそこは私立とはいえかなり大規模な病院だった。
むしろ私立だからこそ?
ガンのかなり先進的な医療とか、
脳疾患系でもこの地方でかなり有名で、
病院本棟が道路を挟んで二つと、
付属の保育所まであるくらいには大きい病院だった。

何度か通ったのだが、
そのうち一度だけ若い女医さんにも会ったことがあってうれしかった(同性だったのでかなり気を許していろいろ質問した)。

それくらい大きな病院だったのに、
産婦人科がなくなった。

マジか。
産婦人科が減っているとは耳にしていたけれど、
あんな大きな病院でもなくなるなんて信じられなかった。

仮に私が妊娠して里帰り出産するとなったら、
私はどこで産めばいいんだ(予定はない)。

まあ、あるよ。
現に地元の総合病院に派遣されてくる産婦人科医もいるわけだから、
そこに産婦人科はある。

でも大規模病院が1箇所撤退するって、
患者としては受け入れ先がめちゃくちゃ減るってことじゃない。
子どもが生まれる数が少ないから(それ以外にも理由はあるにしても)産科を減らし、
産む側も産む場所が少ないから産まなくなって、
少子化の悪循環が目に見えたわ。

大学病院のウラは墓場
本書は大学病院のあり方から、
現在危機に陥っている医師不足の現状(2006年出版)を訴えている。
発刊から10年以上経つのに、
その傾向が地方在住民にはいよいよ目の前にさらされるようになってきた。

怖いわ。

地元バレするが、
当時は新聞でおおいに取り上げられた事故も載っていた。
福島県立大野病院産科事故(正式な事故名はわからぬ)。

何が怖いって、
ここの産科医はこの産科の先生一人しかいなくて……。

一 人 し か い な く て 。

これが現実かよ……。

そんな状況で起きてしまった不運に不運が重なった、
この分娩における事故。
その責任をこの医師はたった一人で受け止めるしかなかった。
責任も、分娩も、出血が起きたあとの処置も。

だって一人しかいないから、
誰も助けてくれない。
一瞬でも自分が手を離せば、
目の前の患者を救えない。

結果的には尊い人命が失われてしまったのだけど、
出産は命がけであることを、
私たち日本人は医療の進歩で忘れてしまったんだなあ。

遺族(主に夫と死亡女性の父)は特に産科医を責めたようだけど、
男だから責められるんじゃないかって私には思わなくもない。

自分たちは射精に命を懸ける必要ないから、
妊娠や出産に命が懸かる現実ってのがわからないんだろうな。
産科医は男性だったけれど、
地域に根ざした医師としてやれることを、
その当時精一杯やりきったわけだ。

もちろん大事な人を亡くした遺族の痛みを、
ないがしろにしてはいけないし、
医療界は女性が亡くなる原因となった胎盤癒着について、
診断方法や処置方法について研究を進めないといけない。

ところがどっこい!
本書には優秀な医者とは何か、について述べられている。
するとだ。
当然かもしれないが、
研究の腕前が優秀=診療の腕前が優秀
ではないのだ。
しかも現在の大学病院では、
診療も研究も教育もすべて行わなければならず、
あっちもこっちも手を出しすぎて、
にっちもさっちもいかない状態に陥っているというのだ。

おい大丈夫か日本。

さらにマスコミの糾弾により、
旧弊的な医局制度が廃止に追い込まれ、
それにより地方の医師不足・過剰な開業医が増加傾向にある。

大丈夫かわが国。

本書では世間の声を代弁するヒーロー、
マスコミ様がよく出てくる。
マスコミ様の言いなりになった病院(経営者、場合によっては厚労省まで!)によって、
医師は右往左往させられて死に物狂いを通り越し、
半ば死人となりながらも人々を救おうと懸命に走り回っている。

となるとマスコミを悪者扱いしたくもなるが、
マスコミは世間受けする記事を書くのがお仕事(←)なのだから、
私たちはマスコミの言うことを飲み込む前に考えないといけない。
その記事が医療界に与える影響は、
回りまわって自分たちの未来に直結するものなのだ。
目の前の罪を医師本人に問うべきなのか、
医療界のことを知らずにマスコミに煽られた一時の感情だけで判断していいのか、
医者がなんでもやってくれるのは当然だと考えるべきなのか。

医師も人であることを、
私たちは改めて知り直さなければいけないのかもしれない。

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