「これじゃ部下は育たない!」無能な上司の一言が私を変えた瞬間
「森野、お前会議で発言するなんて10年早いんだよ」
その言葉が投げつけられた瞬間、冷たい水を浴びせられたような感覚が胸の奥まで突き刺さる。
朝の営業会議。私は徹夜で練り上げた新しいキャンペーン案を発表するつもりで意気込んでいた。新人らしからぬ挑戦だと自覚していたが、それでも前向きな姿勢を示すことで、自分の存在を証明したかった。
だが、その準備を知った山田課長に、あっさりと止められた。
「10年早い」というその一言には、私の努力も熱意もすべて踏みにじられるような冷たさがあった。私はただ、席に着いて黙り込むしかなかった。
会議が進む中、山田課長が提案を次々と却下する様子を目の当たりにした。同僚が出したアイデアにも、「そんなの通るわけないだろ」と鼻で笑い、容赦なく切り捨てる。
部屋の空気はどんどん冷え込んでいく。同僚たちの視線は一様に伏せられ、誰も反論を試みようとはしない。発言することがどれほど危険か、みんな理解しているのだろう。
そんな状況の中で、私は自分がどれほど無力かを痛感していた。誰にも助けを求められず、ただ与えられた仕事を淡々とこなすしかない。心の中では、怒りと悔しさが渦巻いていた。
その日から、私は会議で発言することをやめた。いや、正確には、できなくなった。
朝の通勤電車では、胃のあたりが重くなる。出社しても、周囲の会話に入ることもできず、ただ目の前のタスクに集中するしかなかった。
同僚たちの間でも、不満は蔓延していた。「山田課長、ほんと自己保身しか考えてないよな」「あの人が上にいる限り、新しい企画なんて無理だろうな」そんな囁きが聞こえてくるが、誰もそれ以上口を開こうとはしない。
ある日、他部署との合同ミーティングに参加する機会があった。そこで目にした光景は、私にとって衝撃的だった。佐藤部長が部下たちの提案に真剣に耳を傾け、次々と建設的なフィードバックを送っているのだ。
「なるほど、こういう形にすればもっと良くなるんじゃないか?」
「その視点は面白いな、他のメンバーの意見も聞いてみよう」
その場に漂う空気は、私が所属するチームとはまるで違っていた。活気があり、前向きな議論が交わされている。それを見た瞬間、私は心の底から嫉妬を覚えた。
「あの環境にいたら、どれだけ提案ができただろう……」
しかし、現実は変えられない。私が戻るのは、いつも通り沈黙が支配するあの会議室だ。
新人時代のその経験は、結局、何も変わることがなかった。山田は相変わらず自己保身のために部下を押さえつけ、意見を封じ込めたままだった。
だが、あの経験は、私に一つの確信を与えてくれた。それは、「どんなに理不尽な状況でも、心の中で火を消してはいけない」ということだ。
あの灰色の毎日。あの沈黙の会議室で凍りついた感覚は、今でも胸に残っている。それは私が絶対に「理不尽な沈黙を強いる上司にはならない」と心に決めた原点だ。
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@morizo_23