nokogirisou

nokogirisou

最近の記事

黒井健 を追いかけて(4)

 黒井健さんを語る上で宮沢賢治は避けて通れない。「画業50年のあゆみ―黒井健絵本原画展ー新津美術館ー新潟市」では第5章「宮沢賢治に描く」で賢治に関わる作品が展示された。     黒井さんは永田萌との対談の中で(『永田萌対談集 絵本、好きですか?』大和書房1994)「黒井さんはこれから何を描きたいですか」と質問されて「宮沢賢治。」と答えている。「好きだから。だったら描いてもいいかもしれないと思っている。」「そろそろ勝手に考えたものを勝手に書いてもいいかなとも思っている」「宮沢賢

    • 黒井健を追いかけて(3)

        黒井健さんの作品の中で、私が何度も繰り返しページを開くものの一つに『黒井健画集 ミシシッピ-900マイル、カヌーの旅-』(偕成社1988)がある。これは、実際の旅の経験を通して描かれたものだ。黒井さん自身のことばが、ほかのどの作品よりも多く掲載されている。  『ごんぎつね』(偕成社)を書き上げた1986年に黒井さんは、カヌーでミシシッピ河下りに出掛けている。39歳のときだ。旅に誘ったのは、黒井さんより10歳若いセントルイス生まれのテイモシー・ラニング。彼は、黒井さんの友

      • 黒井健を追いかけて(2)

         前回は黒井さんの画業の原点に触れたが、今回は黒井さんが影響を受けた絵本作家について書こうと思う。  2001年に新潟市民プラザで開かれた(財)新潟市芸術文化振興財団主催の講演会で、黒井さんは自分の好きな絵本作家としてクリス・ヴァン・オールズバーグの作品を紹介していた。オールズバーグは1995年に公開され、話題になった映画『ジュマンジ』の原作者であり、絵本『急行「北極号」』( あすなろ書房2003)『西風号の遭難』(河出書房新社1985)の作者である。黒井さんは、スケールの大

        • 黒井健を追いかけて(1)

           新潟市出身の絵本作家、黒井健さんのことを書く。2022年11月12月に新潟市の新津美術館で「画業50年のあゆみ」展が開かれた。黒井健さんは多くの絵本を手掛けているが、中でも新美南吉と宮沢賢治に向き合い続けている絵本作家だ。展覧会会場に置かれていたビデオの中で黒井さんは「自分の作品は、作家のテキストを『私はこう読みました』という感想画なのだ」と言っていた。テキストととことん向き合い、正直に自分の感じたままを表現しようとする黒井さんの姿勢に私は共感と関心を抱いている。  50

        黒井健 を追いかけて(4)

          帰途に着く前

           旅の最中は、ボーっとする。目新しい地名を口の中で反芻する。早く帰らなくてはと思ったり、お土産どうしようと迷ったり、宿題があったことを思いだそうとしたりしない。旅の目的が果たされ、帰るまでの自由な時間、何をしたいか考える。乗ったことのない乗り物に乗る。窓から景色を見る。  どこにいても感じるのは、人々の生活があること。ベビーカーを押しながらドーナツ屋を覗く母。唸りながら走る消防車。自転車を注意深く止める老人。  迷った末に初めて降りた駅の周りをぐるっと眺めて、目についた珈琲館

          帰途に着く前