帰途に着く前
旅の最中は、ボーっとする。目新しい地名を口の中で反芻する。早く帰らなくてはと思ったり、お土産どうしようと迷ったり、宿題があったことを思いだそうとしたりしない。旅の目的が果たされ、帰るまでの自由な時間、何をしたいか考える。乗ったことのない乗り物に乗る。窓から景色を見る。
どこにいても感じるのは、人々の生活があること。ベビーカーを押しながらドーナツ屋を覗く母。唸りながら走る消防車。自転車を注意深く止める老人。
迷った末に初めて降りた駅の周りをぐるっと眺めて、目についた珈琲館に入る。典型的なサンドイッチとコーヒーをもとめた。珈琲館は学生時代のことを思い出すのに良い場所だ。あのころ暑い都会を動き回って、珈琲館でアイスコーヒーを飲んで身体を冷やそうとしたものだ。
サンドイッチは期待した通りの味だった。歯ごたえもボリュームも。急に小説を読みたくなり、駅にくっついている書店に入ってみる。けれども書棚をうろうろしているうちに私の中の野性が、帰途につけと叫ぶ。
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