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滋賀と京都のあわいで生まれる新アート&カルチャー

「滋賀県=琵琶湖。それ以外の名物は...?」

現地の方に失礼と思いつつ、これが東京生まれの自分の率直な滋賀のイメージ。そんなあやふやなイメージが、ある美術館に行って一変しました。

それが6月にリニューアルオープンした「滋賀県立美術館」

滋賀県立美術館

元の名前は「滋賀県立近代美術館」。リニューアルを機に、時代を問わず広い分野のアートを紹介、県民に親しみを持ってもらう為、「近代」を抜き「滋賀県立県立美術館」に改名したそうです。

旧名の影も形も残さない美術館の改名が多い中、このタイプの改名は珍しい。(例 ブリジス●ン美術館→アーティ●ン美術館)

滋賀県立美術館

リニューアル記念として、滋賀にゆかりのある12人の若手アーティスト(全員80〜90年代生まれ)の作品を展示した『Soft Territory かかわりのあわい』が開催しています。
(同時にコレクション名品展『ひらけ!温故知新』も開催中)

滋賀県立美術館

重要なのが、4つある展示室の割り当て。「Soft Territory」は3部屋、一方で「温故知新」は1部屋。
美術館のリニューアル記念展は、全館あげて目玉作品を展示する「コレクション名品展」が普通。ところが滋賀県美術館は、展示室の大部分を使って地元の若手作家を紹介する。これは公立美術館にとってかなり挑戦的な企画です。

実際に展示物もレベルの高いものばかり。

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度會保浩『庭』2021年

会場に入ってすぐの場所にある度會保浩(1981年生まれ)の作品は、昭和住宅で使われた、模様入りの曇りガラスをパッチワークしたもの。

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純粋にパターンが素敵。そして曇りガラスの向こうは見えないけど誰かいるのはわかる、スペースが限られた昭和住宅の知恵。
なんでも「見える化」が進行する世の中、人との距離感もこれくらいでちょうど良いかも、と感じさせる作品。

二つ目は屋外に展示されている井上裕加里(1991年生まれ)の作品。

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一見すると普通の公園の遊具だが、よく見ると違和感に気づくはず。

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井上裕加里『こうさするこうえん』2021年

Y字型の滑り台に、90度向い合せになったブランコ。1人で朝べる遊具を、2人でタイミングを合わせたり、ゆずり合わないと遊べないようにカスタマイズして、人との関わり合いを再認識できる。これは幼稚園に設置しても問題なさそう。

個人的にドンピシャなのが、ブランクーシの抽象彫刻『空間の鳥』をオマージュした石黒健一(1986年生まれ)の作品。

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コンスタンティン・ブランクーシ『空間の鳥』1925-26年

なんと彫刻のフォルムをそのままに、実際に釣りで使用できるルアーを制作。
空の「鳥」がルアーになって、釣りで使われる。。。このユーモアとひねりが好み。

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石黒健一『100年後に見る鳥と魚の夢』2021年

これ以外にも滋賀の若手アーティスト達の見ごたえのある作品が充実して、実力派のアートを育む滋賀のポテンシャルの高さに驚きました。

そして館内のインテリアも、もう一つの見どころ。朝ドラの舞台となった信楽焼きを中心に、滋賀独自の素材を使用した家具や照明がGOOD。

滋賀県立美術館のインテリア

伝統とモダンが中途半端にミックスされたご当地インテリアは多けれど、ここの美術館は違和感なくマッチしていて、本気で商品化希望です。

また、ロビーも飲食可能なところも嬉しいポイント。ショップでは琵琶湖産の真珠や、真っ白な信楽の狸が販売されてました。

滋賀県立美術館のロビー

「リビングルームのようにくつろげる美術館」のコンセプトに偽りありません。

最後に、企画展と館内を見てきて、滋賀県のアートとカルチャーの強みを勝手に想像してみました。

多くの文化的資本(情報、教育機関、名跡、素材、ビジネスチャンス etc)を集め、圧倒的な伝統と知名度を誇る京都の隣で、どうしても印象が薄くなる滋賀。けれども「伝統」は、一歩間違えば「しがらみ」になり、若手アーティストの創作活動に大きな足枷になる。
だが電車で30分の滋賀なら、そのしがらみは軽くなる(はず?)。

琵琶湖

京都の文化的資本をいいとこ取りし、琵琶湖の自然の中で若手アーティスト、アートビジネスを育てる。これが滋賀県立美術館が目論む文化戦略なのではと妄想が膨らみます。

滋賀県立美術館

安田靫彦、小倉遊亀、そして近年注目を浴びる「アール・ブリュット」(正規の美術教育を受けてない人達の作品)コレクションなど、まだまだ隠し玉を持つ滋賀県立美術館。
ここを中心に、これから滋賀のアートシーンがどう変化していくのか楽しみなスポットです。

 『Soft Territory かかわりのあわい』
会期:2021年6月27日(日)~8月22日(日)※月曜休館
会場:滋賀県立美術館
開館時間:9:30-17:00 (最終入館は16:30まで)
美術館ウェブサイト:https://www.shigamuseum.jp 


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