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mitomok
【1分小説】宝石をひとつ
お題:「どこかの出会い」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
※サービス終了しています
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デジャブだ。初めて来た場所なのに。
母は構わず店頭販売のジャム瓶を物色している。
「そちらのジャム、若い女性に一番人気なんですよ」
「わー嬉しい! あたしはまだ若いってことだね、ふふふ」
朝の軽井沢には、霧が立ち込めていた。
霧の中に浮かび上がる店々の明かりが、ぼんやりと宙に漂っているように見えた。
朝なのに夕方のような、夕方のようで朝のような、不思議な感覚。
「どうした? ジャム食べないの?」
調子にのった母が、試食用のクラッカーにジャムを塗っている。
「ねえ、私、前ここに来たことある?」
「えー?」
「赤ちゃんの時とか」
「まいまい」
クラッカーを頬張ったせいで、「ないない」が「まいまい」になっている。
霧の寒さに、私はマフラーをきつく体に巻き付けた。
夢で見たのか。テレビで見たのか。それにしてもおかしい。
覚えている、というよりは、懐かしい感じの。
「あっ。もしかしたら、あれか」
「なに」
母の手の中で、オレンジ色のジャムが宝石のように輝いていた。
「お父さんと来たんだよ、二人で。あんたが生まれる前にね」
生まれる前の記憶?
本当にそんなことがあるのだろうか。でも、もしかしたら。