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【1分小説】月夜の出会い

お題:倒れそうに震えてる私の肩を抱いて、大丈夫だと囁いて)
お題提供元:お題bot*(https://twitter.com/0daib0t)
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 それはこの世で一番恐ろしいもの。死と同じ色の瞳をもつ、バケモノ。
 その目が今、真っ直ぐに私を捉えている。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 何も悪いことなんてしていない。穴の中で細々と、つつましく目立たないように生きてきただけだ。何も言わなかったから、言えなかったから、こうしてバケモノの生贄にされたのだ。いてもいなくても、同じだから。

 仲間のネズミたちはこの隙に、新しい穴へ引っ越していることだろう。

 誰が生贄になるか揉めた時、成り行きで、あの場を収めようとして、皆が求めていたであろう言葉を、「皆さんのお役に立てて光栄です」なんて思ってもいないことを言ってしまったけれど。やっぱり私は後悔している。本当は生きていたかった。怖くてたまらなかった。

「お願いします、どうか、食べないで……」

 皮肉なことだ。仲間の前で言えなかった本音が、これから私を食べるであろうバケモノの前で、初めて口にできたなんて。

 バケモノはゆっくりと私に顔を近づける。血の臭い。なまぐさい息遣い。

「……なめーは」

 もうおしまいだ。本能が私の体をガタガタと震わせる。

「おい、なめーはなんだって聞いてンだ」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

「ごめんなさい? 随分しょっぺえ名前だなア」

 バケモノが口を開け、私の首筋に牙を突き立てた。痛みはない。恐怖で痛みがなくなっているのかもしれない。
 私の足が宙に浮く。バケモノは歩き始めた。

「チビ……チイ……チイなんて良いンじゃないか。ちっちぇーしよオ」

 私を口にくわえたまま、なんかモゴモゴ言ってる。

「よろしくな。ここに来たってことは、アンタも俺のナカマになってくれンだろ」

「もう嫌です! 食べるならひと思いに食べてください! なんですか、食べ物をいたぶって楽しむタイプなんですか! サディストなんですか!? いい加減にしてください!」

「元気で何より。着いた着いた。今日からここがチイの家だ」

 バケモノは私をそっと地面に下ろした。目の前の光景に、私は息を呑んだ。

 見たこともない繊細な木工細工が、月明かりに照らされて優しく輝いていた。

 私は知らなかった。それが世にも美しい音を奏でる弦楽器であること。そして、いつの間にか奇妙な音楽隊に入ってしまったことを。