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【1分小説】ひとひらの春風【300字小説】

お題:「紙」
お題提供元:Twitter300字ss(https://twitter.com/Tw300ss)
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 一トンの紙を作るのに、十万リットルの水が必要らしい。

 つまり彼女が手にしている百五十グラムの文庫本には、十五リットルもの水が使用されている。

 彼女の指先がページに触れる。春の温かな風が、その細い指やページの隙をくすぐって通り抜けていく。

 傍らに置いた白杖も忘れ、見えないページをめくり続ける。

 よれた紙の端と、足跡のようなページの折り目。それらを幾度もなぞっては、かつて愛読していた物語を回顧する。

 その本に使われたであろうたくさんの水は、果たして無駄だったのだろうか。

 その答えは、彼女の微笑みが知っている。

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