【1分小説】まぼろしの犬を共に愛してくれる人

お題:「やば、幻想」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
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B子がまた、見えない犬を撫でまわしている。

かれこれ16年、高校生になった今にいたるまで、彼女は見えないペットと過ごしている。
社宅でペットの買えないうちに対する当てつけか、と思ったこともあったが、違う。
どうやら彼女には、本当にそこに犬がいるように見えるらしい。
B子が飼っているのは、チワワの男の子でやんちゃ盛りの1歳。16年前からずっと1歳だ。

「がんもー!」

川の土手を歩いていたB子が叫ぶ。通行人が振り返る。
急におでんが食べたくなったわけではない。見えないチワワの名前なのだ。

「ほら、道に落ちてるもの食べないの!」

成績優秀、頭脳明晰、中学校では生徒会役員も務め、社交性もある。
ただ一つ、見えない犬の存在だけが、B子に友達がいない理由なのか。

今度こそ、問いただしてみようか。
父親として、彼女を正しい方向に、導かなければならない。
そこに犬が見えているのはB子だけなのだと。

B子に声を掛けようとして、立ち止まる。

犬をなでるB子に近付いてきた、一人の男子高校生。
彼は見えない犬を彼女と一緒になで始めた。