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【1分小説】砂糖菓子と木漏れ日

お題:愛していたから触れたくなかった
お題提供元:お題bot*(https://twitter.com/0daib0t)
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 きみは恋する砂糖菓子のようだ。
 きめ細やかな白い肌はひだまりの中できらきら光って見える。触ればほろりと崩れてしまいそうな華奢な体をしているのに、その目だけはまっすぐと強く僕を射抜く。

「先生、聞いてました?」
「何の話かな」

 僕はとぼけて丸眼鏡を掛け直す。
 学校裏の雑木林。その中にぽっかり空いた秘密基地のようなひだまりの中で、僕はスケッチブックに柔らかな鉛筆を滑らせる。

「分かってるでしょ。今日転校するんですよ。海の向こうに旅立っちゃうわけですよ。先生、寂しくないんですか」
「家庭の事情ならしょうがない」

 彼女はいじらしく唇をきゅっと結んで、僕をにらむ。

「先生はどこまでも先生なんですね」
「そりゃそうだ。きみは生徒で僕は先生だ。それ以上は何もない」

 スケッチブックにはきみの横顔を描く。頬の形。鼻筋。長いまつげ。僕は紙面の上で彼女の幻影に触れる。本物に触れてはならぬ。触れたなら、きっと僕たちの関係は崩れてしまう。

「今日は何書いてるんですか」
「いつも通りの風景画だよ」

 彼女が僕に身を寄せようとする。僕は静かに退く。

「なんで離れるんですか」
「近いからだよ」
「先生って」

 僕の肩に、白い手が置かれた。羽根のように、軽やかに。

「目元で分かるんですよ。嘘ついてるの」

 木漏れ日が彼女と僕に降り注ぐ。光と影が点描のように混ざり合い、僕は刹那、きみの先生であることを忘れてしまった。