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【1分小説】そして鍵は飛んでゆく

お題:「鳥の牢屋」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
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 空腹で鳴る腹を押さえながら、俺は支給された固いパンをちぎった。
 この牢屋は、辛うじて死なないよう生かされているような、劣悪な環境だった。
 大人一人の腹を満たすには小さすぎるこのパンも、わずかな欠片さえ残らず平らげたかった。
 しかし、残りはあいつの分だ。

 誰も見ていないことを確認し、俺は窓辺ににじり寄る。天井に近い、換気用の小さな窓だ。格子が嵌められているので俺の身体は通らないが、このパン屑は通る。そして、小さく丸めたSOSの手紙も。
 問題は窓の外にも見張りがいること。
 窓の外へ落としても、手紙に気付かれて捨てられるのがオチだ。
 だからパンが必要なのだ。

 廊下から足音が聞こえてくる。近付いてくる。いつもの看守だ。
 俺は立ち上がって背伸びをし、パン屑を窓の外へ押しやる。
 早く。俺は唾を呑み耳を澄ませた。

 微かな羽ばたきの音が聞こえた。
 窓から差し込む四角い日光に、一匹の鳩のシルエットが映る。
 俺の差し出したパンをついばんでいる。
 俺はパンをついばむ鳩の足に、手早く手紙を括り付けた。

「時間だ」

 看守が牢屋の前に立ったのと、鳩が飛び立ったのは同時だった。
 果たして、届くだろうか。処刑の時間までに。