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【5分で読める小説】そんな夢はバクも食わない

お題:つまらない眠り
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/) ※サービス終了
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 目が覚めると、目の前に車が迫ってきた。
「うわあああ!」
 車が通り過ぎる。いったいどういう状況だ。
 そうだ、昨日は道路の側溝にはまって寝たんだった。

 寝返りが打てず凝り固まった体をほぐしながら、思い返してみたが、やはり面白い夢を見た記憶はない。

 無駄な時間は極力節約するこの時代、おれは思いついたのだ。
 睡眠時間もエンターテイメントの時間として活用できないかと。
 すなわち、毎日面白い夢を見られたら、寝ている時間も楽しくなるのではないかと。

 そのためには、普通のベッドで寝るには飽き足らない。
 スリリングな場所で寝ることで、意図的に面白い夢が見られないかと試しているのだ。


 *

 目が覚めると、絶壁だった。
「ぎゃああああ!」
 滴った冷や汗が、はるか500メートル下の地面へ吸い込まれていった。

 呼吸を整え、命綱に縋りつきながら、昨日見た夢を思い出そうとした。
 というかよく眠れたなこんな場所で。

 しかし、相変わらず夢を見た記憶がない。
 もったいない。まだスリルが足りないというのか。

 その時、命綱が切れた。
「あっ」
 一瞬体が宙に浮かび、急降下をはじめる。
「ああああああ!!」
 もうおしまいだ。俺は目をつぶった。



 目が覚めると、また絶壁にいた。
 どういうことだ。荒い呼吸を整えながら思い返す。
 ……ああ、さっきのは夢だったのだ。
 やめだ。もうこんなことはやめよう。

 命綱をつかもうとする。
 手が滑り、再び落下が始まる。