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「シン・オジサン」 第7話

🧪

梶原健三が長野県に来て2年が経とうとしていた。

長野県の施設では4つか5つの研究チームに分かれていて、チームの研究員の入れ替わりは激しかったが、いずれも世界最高峰の知識を持った専門家が集められていた。

健三は長野に赴任して1週間後にマンションと新車のレンジローバーを与えられ、月給は倍になった。

大手製薬会社のBroccoRangaでもこれまでにないほどの好待遇であったが、その分、仕事は苛烈を極めた。

健三の主な研究テーマは細胞の変化を促す電気信号および伝達だった。大学の研究と違い、企業の研究開発は成果を上げるまでのスピードが早い。しかし、今回の長野でのスピードと段階の細かさは通常の企業研究のそれではなかった。まるで、戦時中に実用的な戦闘機を開発しているようだった。

研究の全容を健三が知ったのは、チームの配置換えの時だった。

「Weapns Ogreとは何のことだ?」

プロジェクトの年間計画の資料を見ていた健三が隣にいた研究者に話かけた。

「このプロジェクトの最終到達点さ。内地戦に強い人型の兵器を開発するんだ。」

アメリカ人の研究者はそう言った後に口を滑らせてしまったような顔をした。

「ちょっと待て。我々は高齢者や障害者が基礎的な身体機能を向上させるためのシステムを作っているんじゃないのか?」

健三の語気が強くなる。

「もちろん、その意味もあるさ。だが、我々が先に解決しなければならない世界の危機は高齢者や障害者ではない。」

健三は頭が真っ白になった。
いくらサラリーマン研究者で高給をもらっているからと言って、こんな事が許されていいのか?もし自分が研究から降りると言えば、解雇されるどころか口封じに殺されるかもしれない。


「Team Ogre. Dr.Kajiwara.」

ミーティングでは新体制が発表され、健三はより実装に近いチーム・オーガの副リーダーに任命された。

万雷の拍手で祝福を受けた健三の顔は青ざめていた。


🚬

「たっちゃん、俺らのナノマシンって子供とかに遺伝しないのかな?」

佐々木達也と岡山圭吾は仕事の現場から事務所へ向かう車中だった。

「島ちゃん先輩だってユウ君だって子供たちは普通の人間だろ。第一、彼女もいないお前が心配するのは早いんだよ。」

達也がスマートフォンでゲームをしながら興味なさげに答える。

「そうなんだけどさ。俺たちの中にあるナノマシンは蓄積することで発動の確立が上がるんだろ?水銀や放射能みたいに。だとしたら微量でも子供に受け継がれることってないのかなって。」

圭吾の言う通り、微量でも発動条件さえ整えばOG3を受け継ぐ可能性はあるかも知れないと達也は思った。

「洋子さんに聞いてみないと分からないけど、可能性としては低いだろうな。俺たちみたいなのがどんどん増殖するなんて危険すぎる。」

達也は缶コーヒーを一口飲んで、自分が言った事の妥当性を考えた。

たしかに危険すぎる。だが、オーガや自分達が元々人間であるならば、第二第三の変異体を作ることだって可能なのではないか?一定数のナノマシンの蓄積が必須条件となる以上は遺伝しない説が濃厚だ。

「でもさ。実際は俺だって規定のナノマシンは接種してないわけだけど、OG3の発動はできるわけじゃん?あいつらがしたい事でそういう事なんじゃないかな。」

圭吾がタバコを吸いながら答えた。窓の外を見ながら考え事をしていた達也が咄嗟に圭吾を見た。

「いま何て言った?」

「だから、あいつらがしたい事って自分らの分身を作るとかそういう…」

「そこじゃねぇよ。お前、発動できるのか?OG3を。」

「え?ん?あ、やべぇ…」



人型兵器の開発になぜ日本の田舎町が選ばれたのか??
OG3システムの発動条件とは??
圭吾がOG3を発動するとなぜ「やべぇ」のか??
第8話に続く!!


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