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昔話 ライター修行 その17

★ 困った志望者②


そしてライター(作家と混同している人も多い)。これは絵が描けなくても、センスがなくても、字さえ書ければなんとかなるというイメージが強いせいか、さらに困ったちゃんな志望者が多い。

 たとえば主婦雑誌の取材で、ミセスのお宅におじゃまする。帰りしな
「フリーのライターさんなんですか。いいですね、時間が自由になる仕事で(だからぁ……)。私も文章書くの好きなんですよ。子供が寝たあと30分くらいでできる仕事、回していただけません?(あったらいいね。そういうの)」
 だの、押し入れから原稿用紙の束を持ち出してきて
「作品を書いているんですけど、これを本にしてくれる出版社、紹介してくれないかしら?」
 なあんて気軽に(ほんとに気軽に)頼まれることはよくある。

 若い女のコにも勘違い組は山ほどいる。
「芸能人とかにも会えるんでしょ? いいないいな。インタビューとかだったら、私、おしゃべり好きだし、それテープに録音して、原稿用紙に写せばいいんですよねえ?」
「おいしいレストランとかに行って~、試食して~、感想を書けばいいんですよね。私、食いしん坊だし、手紙書くのも得意」

 たぶんテレビのドラマなどで女優さん達が演じる「ライター像」を鵜呑みにしているんだろうなあ。高級マンションに住んで、ブランドものをカッコよく着こなし、華やかに仕事をし、イケメンの彼とホテルのバーでしっとり飲んで、バカンスは南仏へ……。いいなあ、いいなあ。私もそういうライターになりたいよう(号泣)。

 これとは違うタイプで、ジャナ専(ジャーナリスト専門学校)出身組のとほほな志望者もいる。

「ELLEとか、VOGUEなんかの、ファッションジャーナリストになりたいんですぅ。ファッション以外はやりたくないって感じなんですよねぇ。海外取材とかしたいんです。え、外国語? 通訳つかないんですか? いつも読む雑誌ですか? Hanakoとか……。イタリア版VOGUEって、それ、なんですか?」

「私って友だちも多いし、新しいお店にも詳しいんですよ。海外旅行(実は完全お任せのパックツアーだったりする)にもけっこう行ってるし。私の身の回りで起こったこととか、おもしろい話なんかを書いたら、若い子に読んでもらえると思うんですよ。ないですかね、そういう仕事(それはエッセイスト、コラムニストの仕事では?)」

 最近、多いのが収入をやたら気にするタイプ。
「森下さんの年収っていくらですか(あの、初対面なんですけど)? ライターになったら、1年目だといくらくらいもらえるのかなぁ。私、月に最低50万円は欲しいなって思うんです(思われてもなぁ……)」

「会社辞めた退職金があるんですけど、それを使い切る前に仕事が欲しいんです。あと1ヶ月分くらいなら、残ってます」
 何度も言うようだが、ライターの仕事は実際に原稿を書いてから、早くて翌月以降にしか原稿料はもらえない。今すぐ仕事がどっと来て、来週原稿を書いたとしても、1ヶ月後(最速で)だ。

 ライターの仕事なんて、私もやってみるまでわからなかったから、知らないこと自体を悪いとは言わないけれど、ギョーカイ系のためか、とんでもない勘違いをしているケースが多いように思う。ライター志望の人には
「とりあえずやってみる?」
 と、仕事を紹介したりすることも多いが、その半数は
「こんなに地味だとは(儲からないとは、キツいとは)思わなかった」
 とすぐに辞めてしまう。もちろん、なかには私がちょっぴり紹介したのがきっかけになって、私以上にバリバリ活躍しているライターも少なくないけれど、途中でギブアップして、紹介した私に
「時間の無駄だった」
 なあんて恨み言をいう、ほんとうにとほほな人たちもいないことはないのだ。

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