見出し画像

ドラマ「その女、ジルバ」にかつての自分を見た

今期の見たいドラマは週末にかけて集中していて、視聴が追いつかず大渋滞。
その中でも、このところ毎週入れこんで観ているドラマは「その女、ジルバ」だ。

大手百貨店から出向を命じられ、アパレル販売員から物流倉庫勤務となった笛吹新は、夢も希望もなく人生を半ば諦めたように生きていた。40歳の誕生日を迎えた日、不思議な縁で平均年齢70歳というバー「オールドジャック&ローズ」で働くことになる。

主人公、笛吹新を演じている池脇千鶴さんのなりきりぶりが凄い。
各方面でも話題になっていたが、池脇さんがだいぶ久しぶりに主演するドラマという事で見始めたものの、最初の数秒、彼女だと気付かなかった。
私の中の池脇さんは、映画「ジョゼと虎と魚たち」のジョゼ役の印象が鮮烈で、画面に映る化粧っ気のない疲れた表情の女性が、あの池脇千鶴さん!?と認識した時は衝撃を受けた。
40代シングル女性と言っても様々で、一括りには出来ない。仕事もプライベートも充実した毎日を送っている人もいるだろうし、もちろん結婚だけが全てではない。このドラマが身につまされるのは、先の見えない暗いトンネルの中にいるような、40にして人生に迷っている女性たちだと思う。
そう、かつての自分の様な。

当時の自分を思い起こすと、今でも軽く凹む…。
30代後半40歳を目前にして、独身を謳歌していた時代は過ぎ、結婚の予定も彼氏もなし、その話題には敢えて触れないよう年若い同僚などには気を遣われていた気がする。仕事はとある企業の契約社員として働くWeb系専門職だったが、プロジェクトが終わればいつ切られるとも分からない、明日をも知れぬ身だった。(実際に会社は数年後、業績不振のため親会社に吸収合併され、リストラの嵐が吹き荒れることとなる…)

なんだか新の境遇が他人事と思えず、あの頃の自分と重なってしまうのよ…。

会社の昼休みに同年代の同僚とグダグダ話す話題の中心は、”出会いがない” というもので、かと言って一人で生きてゆく覚悟もなく、はじめて業界へ飛び込んだ頃の仕事への勢いと情熱は薄れ、”この先どうしよう…” と焦るばかりの堂々巡りで先の見通しの立たない現実に、すっかり意気消沈し諦めきっていた。
自分の人生詰んだ…と思っていた。

あの頃の自分にも、”40歳なんてまだまだ”って誰かに言ってほしかった。
「オールドジャック&ローズ」みたいな居場所があったらよかったのにな。

くじらママ役の草笛光子さんとマスター役の品川徹さんは、お二人とも80歳を超えているとは思えないほどカクシャクとしていて格好いい。このお二人がキャストとして居るだけでドラマの品格が上がる気がする。
そして40歳過ぎてから生まれた女たちの友情は尊い。
新の会社の同僚にはスミレ役の江口のりこさん、みか役の真飛聖さん、と役者陣も実力派揃いで、悲喜こもごものストーリーにリアルな味わいを醸し出している。
バーの内装やホステスさんたちの衣装が昭和感満載のレトロな雰囲気で、昭和生まれにとってはどこか郷愁を誘う。キャストもほとんどが昭和世代だ。

しかし、何が起こるかわからないのが人生でもある。
ドラマの中の新は「オールドジャック&ローズ」で出会った人々との交流から、少しづつ人生の流れが変わってゆく。
実は私の身にも、捨てる神あれば拾う神ありな予想外の転機が訪れるのだが、40代は怒涛の展開が待っていることを当時の自分はまだ知る由もなかった。
まぁその話は、またいつか。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

ドラマは後半戦へ入り、第7話では、自分の居場所とふるさとがテーマとなっていた。新が正月に帰省し家族と会話するシーンでは、耳馴染みのある東北訛りが懐かしく、田舎から上京し長い間東京で働いていたことなどが重なって、じんわりと感慨深かった。
そして、ブラジル育ちで自分のアイデンティティに迷う白浜(竹財輝之助さん)の、”日本へ来るのか帰るのか分からなくなる” というセリフにも、つい反応してしまう。
日本へ一時帰国すると、空港の ”おかえりなさい” の文字にいつもホッとして少しウルっとくる。そして再び出国する時には、”いってらっしゃい” と搭乗の際などに言われると、行くっていうか…ああ、また自分は彼の国へ戻るんだな…と切ないような気持ちになる。もう私の生活拠点は日本にはなく、自分の年齢を考えればこれから先日本に住む可能性は限りなくゼロに近い。大袈裟かもしれないけど、自分が選んだ道というものを日本を発つ際に毎回実感する。
移民として日本へやって来た日系2世のジルバも、同じような気持ちになったのかな…などと思った。

自分の居場所は?新しいふるさとは?
“40だから出来るんじゃないかなって”
ついに新は、お店一本でいく決意をくじらママとマスターに伝える。
すっかりキャラ崩壊して恋する乙女になってしまったスミレちゃんも含め、今後の展開から目が離せない。

この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

いただいたサポートは、日本のドラマや映画観賞のための費用に役立てさせていただきます。