紫苑をあなたに

紫苑 しおんの学名Aster アスターは、ギリシア語のaster（星）を語源としており、星のように放射状に伸びる花びらの姿に由来しているという。

紫苑 しおんとは、その儚く高貴な薄紫色を指す日本の伝統色の名前でもある。
かの「源氏物語」にも登場する紫苑色 しおんいろは、平安時代、秋の着物や襲 かさねの色目としても人気があったという。
襲 かさねとは、十二単 十じゅうにひとえに代表されるように、平安時代の貴族が装束を何枚も重ね着していたことを示し、下の衣に重ねる色彩の組み合わせ、グラデーションで美しさを表現していた。
この頃から衣の色に名前を付けるようにもなったそうで、平安の文化とは、なんと優雅なのだろう。

古典の「今昔物語」の中にも紫苑 しおんは描かれ、"思い草"という別名や、十五夜の時期に満開になることから "十五夜草" とも呼ばれているらしい。

紫苑 しおんは原っぱなどに自生していて、私が子供の頃にもよく道端に咲いていたが、最近ではその姿をあまり見かけなくなり、絶滅が危惧されているという。
昔から親しまれてきた野の花がなくなってしまうのは、寂しいものがある。

" まだあげ初めし前髪の "

島崎藤村は「初恋」の詩の中で、少女が大人になり前髪を結い上げた様子を詠んでいたが、私には、大河ドラマ「おんな城主 直虎」での、元服を迎えた亀之丞が前髪を上げ、井伊直親になった姿が浮かんでくる。

" 水もしたたる益荒男ますらおぶり "

そう劇中でも言われていたが、井伊家の頭領となった、春馬くん演じる直親の、美丈夫で健康的な体躯、清々しく溌剌とした笑顔を見ると、心が沸き立つ。
それと同時に、直親が辿った数奇な運命と翳りまでもが、あなたと重なり、胸が苦しくなってしまう。

古くから日本人に愛されてきた紫苑 しおんの花の佇まい、花言葉に、あなたの面影を見るようだ。


凛々しい若武者姿のあなたは

人々の心に、長く深く刻まれている

これから先も、ずっと

紫苑 しおんの花言葉

追憶
・
君を忘れない
・
遠方にある人を想う

紫色
・
時が経つのを忘れて

白
・
どこまでも清く