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ドラマ「大豆田とわこと三人の元夫」最終回〜もう会えなくなった親友のこと

"見えなかった母の横顔がとつぜん振り返った" そんな気がした、とわ子。
なんと、とわ子の母は父以外に好きな人がいた。
最終回だというのに、そんな重大なエピソードを新たに入れ込んできた坂元さん、最後まで攻めた脚本だった。

母の恋文を見つけてしまい、そこにあった住所を頼りに母の恋人に会いに行く、とわ子と唄の行動力にも驚く。
教えられたアパートに行くと迎えてくれたのは女性だった。母の想い人は女の人だったのだ。ここでまた驚く。
マーさん役の風吹ジュンさんの、軽やかながらもシャンとした佇まいが素敵だった。頭にヘアターバン巻いて爪にはブルーのマニュキュア、袖がシースルーのオーガンジーのようなブラウスを着ていて、お洒落。老眼鏡をずり下げて掛けながら微笑む姿は、只者ではない感じ。
小ぢんまりした室内の所々に花が生けてあったり、リンゴを剥いて飾り切りして出してくれたり、慎ましくも整えられた部屋の様子からも丁寧に暮らしていることが伺える。二足のバレエシューズ(少女時代のとわ子の母とマーさんのものか?)が置かれてあり、もしかすると、マーさんはバレリーナとかバレエの先生だったのかもしれないと思ったり。
唄が「恋人だったの?」とマーさんに聞くと「素直にそう言えるって素敵だね。ありがとう。」と答えるマーさん。

家族を愛していたのも事実、自由になれたらと思っていたのも事実。
矛盾してる、でも誰だって心に穴を持って生まれてきてさ、それ埋めるためにジタバタして生きてんだもん。
愛を守りたい、恋に溺れたい。一人の中にいくつもあって、どれも嘘じゃない。

良かったんだよ私を選ばなくて、と言うマーさん。
母は幸せだったんですね…と、父母が離婚した事は伝えなかった、とわ子。
結婚前から母には好きな人がいる事を知って家を出て行った父。
まるで、とわ子と八作とかごめみたいではないか。
家族それぞれが胸に秘めた想いがあった。
「お父さんとお母さんが、あなたを転んでも一人で起きる子にしてしまった。」
「お母さんは悪くない。俺のせいだ。」と言って網戸をはめ直す父。
「今は一人だけどさ。田中さんも、佐藤さんも、中村さんも、みんな私が転んだ時に起こしてくれた人達だよ。」「お父さんだってそうだよ。」と言う、とわ子。
父と娘の和解のシーンが泣けた。
岩松了さんの飄々とした演技と雰囲気は、どこか憎めない父親像だった。

とわ子の母とマーさんの物語から、私の心に思い浮かんだ人がいる。
その人は、今はもう遠い記憶の中の人だ。

大学入学を機に地方から上京した私は、東京にはまったく知り合いもいなくて、大学にもなかなか馴染めなかった。
そんな時、最初に声をかけてくれたのがA子だった。A子は同い年とは思えないほど大人っぽくて、お洒落で映画や音楽やサブカルにも詳しくて、私は彼女から沢山のことを教わった。私たちはいつも行動を共にするようになり、やがて彼女は私の下宿先に入り浸りとなり、朝起きて大学へ行き帰ってきて夜寝るまで一日中一緒に過ごすようになった。
女子校育ちで奥手だった私は、大学で男女共学になったものの、男子と接するのが苦手で何だかちょっと怖いような気がしていた。だからA子とつるんでいる方が居心地がよかった。居心地がよすぎて、ある日、講義をサボり部屋で二人ゴロゴロしている時に、私はついA子にこんなことを言ってしまった。
「A子が男だったらよかったのになぁ。」

親友だったと思う。少なくとも私はそう思っていた。しかし卒業後は何となく疎遠になっていった。
数年が経ち、仲の良かった女子グループで飲みに行くことになり、久しぶりにA子とも会った。ずっと会っていなかったのが嘘みたいにA子と話が弾んだ。飲み会のあと二人で、よく通った深夜まで開いているカフェに場所を移した。
そこで「ずっと好きだった。」とA子に言われた。
えっと…私はどうリアクションしたらいいか分からなくて「わ、わたしだって好きだったよ。」と返した。すると笑いながら「いやいや、あなたの好きと私の好きは違うから。」とA子に言われた。
そして、今は二つ年下の彼女と一緒に暮らしていて楽しくやっているし、今言ったことは気にしないで、なんか言っておきたくなっただけだから、と言われた。
突然のことで私は混乱して整理できずに、彼女の言葉に「そうなんだ…。」としか言えなかった。
だけど本当は、ずっと前から何となくA子の気持ちに気づいていたのかもしれない。

それがA子に会った最後だった。
電話番号もメアドも変わってしまって、共通の友人達も誰も彼女の連絡先を知らない。彼女は今私が海外で暮らしていることも知らないだろう。

私たちは、とわ子の母とマーさんのように両思いにはならなかった。

だけど、私もA子のこと本当に好きだったよ。
あなたの好きとは違うかもしれないけど。
二人が60、70歳の老女になってもずっと一緒かもって思っていたよ。
ずっとずっと友達でいられると思っていたよ。

両思いでも結ばれなかった、とわ子の母とマーさん。
急に消息が途絶え30年以上も会うことはなく、マーさんはとわ子の母がすでにこの世を去っていたことも知らなかった。

まるで私とA子の未来みたいではないか。

ドラマを観終えた後、
A子は今頃どうしているだろうか、と思った。
あれからとても長い年月が経ってしまったけれど、いつも心に浮かぶのは、19、20歳の頃の晴れやかなA子の笑顔だ。




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