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【北海道時間.jp】第2回:明治時代の息吹を感じて 旧函館区公会堂の歴史と魅力

歴史と背景
函館は、明治時代に入り北海道の中心的な都市として発展を遂げました。1907年12月16日の大火により、町会所や商業会議所などの重要な建物が焼失する被害に見舞われました。この悲劇を契機に、函館の面目を一新すべく、新たな集会施設の建設が住民から熱望されるようになりました。

この機運を受け、函館に本拠を置く豪商・相馬哲平氏が中心となり、多額の寄付を呼びかけました。相馬氏自身も5万円の多額の寄附を行い、地域社会が一丸となって計画を後押ししました。こうした努力の結実として、1910年9月に旧函館区公会堂が竣工を迎えることができたのです。建築費用の約5万8千円のうち、実に5万円が相馬氏による寄付でまかなわれたことは、地域の人々の強い絆と相互扶助の精神を象徴する出来事と言えるでしょう。

完成した旧函館区公会堂は、住民の集会の場として広く利用されるだけでなく、演奏会や展示会の会場としても活用されました。1911年8月には、皇太子殿下(後の大正天皇)が宿泊されるなど、歴史的にも重要な役割を担いました。その後も、1922年に摂政宮殿下(後の昭和天皇)、1989年には天皇皇后両陛下が宿泊するなど、日本の至高の方々がこの地を訪れる名誉を賜ったとのことです。

建築の特徴
旧函館区公会堂の建築様式は、典型的な明治洋風木造建築と評されています。正面から見ると、左右対称のコロニアル調のデザインが目を引き、コリント様式の円柱で支えられたバルコニーは当時の西洋建築の影響を色濃く反映しています。屋根裏には細かな装飾の施された窓が並び、全体としてゴシック調とバロック調が絶妙に融合した優雅な佇まいを醸し出しています。こうした魅力から、1974年には国の重要文化財に指定され、その価値が改めて認識されました。現在でも当時の建築美が色あせることなく残され、訪れる人々を魅了し続けています。

館内案内
旧函館区公会堂の内部は、当時の調度品や展示物が残されており、まるで明治時代にタイムスリップしたかのような雰囲気を味わえます。それぞれの部屋には歴史的な背景があり、訪問者を当時の時代へと誘います。まず目に付くのが球戯室です。建設当時はビリヤード台が2台設置されていた娯楽の場でしたが、現在はヒストリーテーブルが設置され、公会堂の歴史を紹介する展示室として利用されています。ここでは公会堂の歩みを学びつつ、当時の上流階級の憩いの一端にも触れることができます。

小食堂には、かつては食事が提供されていましたが、現在ではシアタールームとなり、公会堂の映像資料が上映されています。大火からの復興、建設の経緯、修復工事の様子などを視覚的に体感できるでしょう。中央に位置する大食堂は、建物の中心的な存在です。ここでは来館者に食事が提供されていましたが、当時は厨房設備がなかったため、外部から料理が運び込まれていたそうです。現在でも食堂の趣きは色濃く残されています。他にも、会議所事務室や応接室があり、函館がかつてビジネスの中心地であった面影を偲ばせます。ビジネスの打ち合わせや交渉の場として活用されていたことが窺えます。

そして見逃せないのが、明治44年(1911年)の皇太子殿下(大正天皇)の宿泊に備えて設置された御後架(とうか)や御湯殿(ごゆでん)、御召替室(ごしょうがえしつ)、御寝室(ごしんしつ)、御座所(ござしょ)、御食堂(ごしょくどう)などの部屋です。ここには皇族が実際に使用した高級家具や調度品が残されており、当時の最高の待遇を垣間見ることができます。

旧函館区公会堂を実際に訪れてみて、その魅力に心からひきつけられました。正面から見上げると、対称形の建物と装飾が施された窓がたちまち目に飛び込んできます。コリント式の円柱に支えられたバルコニーは、まるで古典的な寺院を思わせる気品に満ちています。外観だけでなく、内部にも職人技術の粋が随所に見られ、細部へのこだわりに目を見張りました。特に印象深かったのが、皇族の方々が使用された部屋です。御寝室には真鍮のパイプ製の高級ベッドが置かれ、御湯殿の浴槽はなんとも珍しい猫足の形状でした。湯気が籠もるようにドーム型に設計された天井には、当時の人々の創意工夫と洗練された感覚が反映されていました。かつて皇室関係者が利用した部屋を間近に見られたことに、思わずワクワクさせられました。

一方で、大広間の雄大な空間や、ビリヤードが行われていた球戯室など、当時の町民の生活や娯楽の様子が目に浮かぶようでした。音楽会や講演会が開かれていた大広間では、観客席から見渡す景色が臨場感たっぷりに甦りました。こうした体験から、当時の人々の日常に思いを馳せ、懐かしさすら覚えました。

歴史的価値に加え、函館港を望む眺望も素晴らしく、この地の自然の恵みと人工の偉大な文化遺産が効果的に調和していることを実感。見渡す限りの美しい景観に酔いしれると同時に、先人たちの気概と努力に思いを馳せずにはいられません。

この旧函館区公会堂を訪れることで、明治時代の重厚な歴史と雄大な気概を間近に感じ取ることができました。建物自体が歴史の生き証人であり、かつての人々の生き生きとした活力を体現するかのように私の心を打ちました。歴史的建造物は単なる観光地ではなく、人々の知恵と工夫の結晶であり、過去から今に受け継がれた文化の軌跡そのものなのだと実感しました。函館観光のハイライトともいうべき場所の一つです。

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