リストラジュリエット

 世界的な映画監督がうちの部に指導にきた。海外テレビの企画だった。
 ロミオとジュリエット。事前の台本にジュリエットがいない。
 まさかないわけはあるまい。我々はジュリエット抜きで練習していた。一応役は準備した。私だ。

 監督が来た。恰幅の良い茶色の顎髭を蓄えた男。印象で一番近いのはサンタクロースだ。
「じゃあ、始めて」
 一通りやる。もちろんジュリエットはいない。
 5日が過ぎた。
「あの、ジュリエットは?」
 私は我慢出来なくなって通訳に尋ねた。
「ああ、彼女はリストラさ」
 と、監督。訳されなくても意味が分かった。
「どうして?」
 でも答えはない。
 結局私は劇に参加できず、監督は帰っていった。
 3か月後、外国から手紙が来た。
「出番がないのにあなたは終始毅然としていました。その胆力、ぜひオーディションを受けていただきたい」

 ロミオが死んでも後を追わないジュリエットの役だった。
 そのまま中国大返しで両家を治め、氷の女帝として君臨するのだという。

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